suddenly⑬

いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて

紡のアパート・中(日替わり・朝)

仕事へ準備をする紡。

英語のテキストを手に取ると、哲が奪い取って、

哲「なにこれ。習い事?」

紡「うん」

哲「なんで英語?」

紡、淡々と支度を進めながら、

紡「藤沢くん」

哲「…ん?なんで突然その名前出てくんの?」

紡「藤沢くん」

哲「(驚いて)…え?」

紡「え?」

哲「…」

紡「…」

紡、テキストを奪い返し、バッグに仕舞う。

哲「…通ってるの?」

紡「まぁねぇ」

沈黙があって。

哲、疑いの視線を向ける。

紡、哲と目が合って、

紡「…あ、郊子も知ってる。別にあれだから。こそこそアレしてるとかじゃないから」

哲「(疑っていて)…へぇ…」

紡「いってきまーす」

小さなCDショップ・店内

レジ打ちや品出しなど、仕事中の紡。

仕事を終え、急いで荷物を持って店をで出ていく。

英語教室・中(夜)

授業中。何度も繰り返し小村の真似をしたり、質問する紡。

授業中を終えて。

紡「(英語で)ありがとうございました」

小村、荷物をまとめる紡に、

小村「今日、気合入ってますね」

紡「そうですか~」

小村「やる気」

紡「そうですかね~」

小村「はい。英語覚えるぞっていう意思が。最初からかなり意思強い感じありましたけど、今日は特に」

紡「約束している人がいるので」

小村「約束?」

紡「約束。日にちと時間と場所。すでに決まってて、決まってる通りに行けば会えるんです。約束すごすぎます」

小村「言ってた、その、英語で話す人ですか?」

紡「アドバイスください」

小村「あー」

紡「例えば」

小村「英語話さない方がいいかも」

紡「…え?」

小村「なんていうか、なんでもない」

紡「分かりました」

小村「こっちがお前の言葉、わざわざ覚えてきてやった、みたいな感じを、感じさせちゃったら、終わりです」

紡「…そんなつもりで覚えたんじゃないです」

小村「そんなつもりかどうかっていうのも、こっちの都合でしかないから。すべては向こうがどう受け取るかです」

紡「たしかに…(不安で表情が曇る)」

小村「あ、ごめんなさい。なんか、楽しい感じだったのに、ごめんなさい」

紡「あ、いや」

小村「大丈夫ですよ。普通は嬉しいと思います。好きな人が、自分の言葉覚えてきてくれたら」

紡「(苦笑いで)向こうは、別に私のこと好きじゃ」

小村「黒田さんは好きなんですか」

紡「特に」

小村「好きだった人?」

紡「いえ、特に」

小村、察して笑顔で、

小村「楽しみだね、話すの」

紡「あ、はい」

スタバ・店内(日替わり)

以前、哲と会ったのと同じスタバ、同じ席。

紡、緊張した様子で哲を待つ。

哲、入店してすぐ紡に気付き、やってくる。

紡「…(じっと哲を見る)」

哲、紡の前にスマホを置く。

紡「結構です」と言うように、首を横に振って、そっと哲のスマホを自分から遠ざける。

哲「?」

哲、もう一度紡の前にスマホを置くが、紡、さらに激しく首を振って、スマホを遠ざける。

哲「…」

紡「(小声で)…伝わってないかな」

哲、微笑んで、

哲「藤沢です」

紡「あ、うん、よかった、通じてた(と照れ笑い)」

哲「(英語で)覚えたの?」

紡「(英語で)覚えたの。見てて。私の年齢は、25歳です」

英語で会話をする二人。

哲「知ってる」

紡「私の、誕生日は11月8日です」

哲「知ってる」

紡「私の家族は母と私と弟です」

哲「知ってる」

哲、一生懸命に知ってることを話す紡がおもしろくて笑う。

その姿を見て、安堵して笑う紡。

紡「だよね、知ってるよね」

紡、日本語で、

紡「…あ、うん(と頷く)」

哲、スマホに文字を打ち込み、見せる。

【(><)】

紡「(スマホを見て)…」

哲「(紡を見て)…」

紡「あのとき…あ、わかんないや。ちょっと待って。次に会うときは話せるようになってるから」

と、話しかける。

紡「最後に会ったとき、うちの近くの公園」

哲「(思い出して、頷く)…」

紡「あのとき、そういうことだったのかなって」

哲「?」

紡「そのとき、私知らなかったけど」

哲「…」

紡「電話したいとか、声が好きとか、そんな話ばっかりして」

哲、スマホに文字を打つ。

【嬉しかったよ】と。

紡「…でも、好きな人できた、別れようって」

哲、首を横に振る。

紡「送ったでしょ。好きな人できた、別れようって」

哲【好きな人がいる】と。

紡「…いる?」

哲、紡を指さす。

紡「…」

哲【悲しませたくなかった】と。

紡、涙が溢れてしまって、顔を背けて、

哲、【このこと知ったら、そうやって泣くと思ったから】と。

紡「振られて泣いたし」

哲「そっか」と頷く。

紡、涙を拭う。

哲、【今、黒田のこと泣かせない優しい人がいるの?】と。

紡「(微笑んで)…うん、いるよ。今度会ってよ」

哲、「えー」と嫌な素振りを見せる。

紡「(笑って)なんで。会ってよ」

2人、顔を見合わせて笑う。

少し寂しそうな哲。

紡モノローグ「藤沢くんは?今は、なんでも打ち明けられる、信頼できる友達がいる?」

友達は一人いればいい。恋人も一人いればいい。

紡には哲がいればいい。哲はどう思ってる?

  • 0
  • 0
  • 0

ゆり子

SnowManのファンです。よろしくお願いします。

作者のページを見る

寄付について

「novalue」は、‟一人ひとりが自分らしく働ける社会”の実現を目指す、
就労継続支援B型事業所manabyCREATORSが運営するWebメディアです。

当メディアの運営は、活動に賛同してくださる寄付者様の協賛によって成り立っており、
広告記事の掲載先をお探しの企業様や寄付者様を随時、募集しております。

寄付についてのご案内