いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて
[回想]サイゼ・店内(夜)
紡「…藤沢くん、二次会行かないの?」
哲「黒田、二次会行かないの?」
紡「…ちょっと、仕事が」
と、散乱した机の上のペン。
哲「(それらを見て)ちょっとじゃなさそう」
紡「…」
哲「仕事辞めたら」
紡「お金ないし。楽しいし」
と、パソコンに向かいながら話す。
哲「(パソコンを指さして)何やってんの?」
紡「んー、小説みたいなやつー」
哲「今すぐやんないとなの?」
紡「明日まで(小さく溜め息)」
哲「そっか」
紡「…」
哲「…」
紡のタイピングの音だけが響く。
心配そうに紡を見つめる哲。
紡、居心地が悪く、空元気で笑って、
紡「なに?」
哲「いや、なんにも」
紡「眠い」
哲「誘ってる?」
紡「周りに、好かれるように上手くやってんの、同期にも頼られてて」
哲「へー(いらついている)」
紡「黒田さんなら任せられるねって」
哲「…(押し付けられてるだけじゃん)」
紡「明日までとか、無理?」
哲「うんうん」
?「ありがたいよね。期待されてるってさ。ちゃんと期待に応えなきゃって思う。お金貰ってるしね!」
哲「本当ですね」
紡「社会人ってすごいね、偉いねー、頑張ってるねー、哲かわいいよー」
哲「黒田」
紡「藤沢くん、会社の女の人に、挨拶で体触ったりする?」
と、作り笑いでパソコンに向かう紡。
哲「…さ!」
紡「…(苦い顔)」
哲「黒田さん、睡眠時間どのくらい?」
紡「寝てる寝てる」
哲「…ねぇ、ほんと大丈夫?」
紡「大丈夫だよ…」
と、力なく笑う。
哲、唐突に紡のパソコンを奪う。
紡「びっくりした」
哲、紡のパソコンをいじって、ワードに【すき】と書いて、
パソコンを紡に返す。
紡「…え」
哲「動画、検索して」
紡「…動画」
哲「スノーマン、スペース、MV、って」
紡「スノーマン」
哲「かわいいの出てくるから、それ見てて。俺トイレ行って、帰りにドリンクバー寄ってくる」
と、席を立つ。
紡「…」
哲、グラスを二つ持って席に戻ってくる。
パソコンの画面を見て、微笑んでいる紡。
哲「かわいいね」
紡、動画を見たまま哲と話す。
紡「かわいい」
哲「はい、カフェラテ」
紡「コンポタがいい」
哲「ドリンクバーにコンポタはありません」
紡「コンポタ…」
哲「無理です」
紡「無理か」
哲、グラスを二つとも飲むの前に置いて、
哲「無理なことってあるんだよ」
紡「(哲を見て)…」
哲「無理すると、ほんとに全部無理になっちゃうよ」
紡「そうだよね」
哲「やればできる、男はね」
紡「はい」
哲「期待と圧力は違うよ」
紡「…」
哲「…俺ね、人殴ったことない。殴りたいと思ったこともない」
?「うそですね」
哲「黒田の職場にいる、黒田の職場に挨拶する奴は、俺会ったら、多分殴っちゃうっと思う」
紡、静かにぽろぽろと泣き出す。
紡「会わせないようにしなきゃ」
哲「うん。黒田も、もうそいつに会ってほしくない」
紡「(言葉が出なくて)…」
紡、パソコンの画面を哲に向ける。
SnowManの動画。
哲「ん?」
紡「…見て。元気出る」
哲「(笑って)ありがと」
紡、何度も涙をぬぐいながらメニューを見て、
紡「ミラノ風ドリアでも食べよっかな」
哲「うん、食べな」
紡「チョヌンクロダイムニダ(大笑い)」
哲「いいね(メニューを覗いて)コンポタも頼む?」
紡「帰りに自販機で買おう、缶のやつ」
?モノローグ「結局紡は食べきった。残りを食べようと思っていた俺がバカだった」
紡「食べてるとこ見たら藤沢くん安心すると思ったから、とよくわかんない言い訳をして食べました」
[回想]ステラのアパート・中
二人、ソファに寄り添って座り、映画を観ている。
ステラモノローグ「それから何度か、お互いの家を行き来するようになって、そういう感じになった」
真剣に映画を観ているステラ。
今にも寝てしまいそうなくらいうとうとしている。哲の肩に寄り掛かる。
チラッと哲を見て、すぐテレビに視線を戻して、
ステラ「寝てていいよ、先輩」
哲「…お腹減った、ミラノ風ドリア食べたい」
ステラの頭が肩から落ちないように慎重に机の上のポテチの袋をとる。
ステラ「食べていいよ」
哲「(ポテチを食べながら)女がイヤだ」
と言いつつ、ほとんど寝てる状態でポテチを食べる。
ステラ「寝るか食べるかどっちかにしなよ」
?「遠慮なんてしないように」
目を閉じたまま、「もう一枚」とポテチに手を伸ばす哲。
「はいはい」とポテチの袋を渡すステラ。
寝ながら食べる哲の姿を見て笑うステラ。
ステラモノローグ「よく寝て、よく食べますね、先輩」
[回想]サイゼ・店内
ミラノ風ドリアを食べている哲とステラ。
哲、ゆっくりと食べている途中。
ステラ、先に食べ終えて、バイト雑誌を見始める。
哲モノローグ「時給や賄いバイトを選んでる。ステラは何が好き?何に関わる仕事がしたい?と聞いたら」
ステラ、少し考えて、ぼんやりと、
ステラ「…音楽」
哲「…え」
哲モノローグ「誰かを思い出したみたいな顔でそう言った」
[回想]芸能事務所
ステラ、哲から仕事を教わっている。
スーツ姿の哲、仕事帰り。
二人、目が合って、小さく笑い、小さく手を振る。
哲、SnowManのCDに目が留まる。
哲「…」
CDを手に取ろうとして、やめる。
哲モノローグ「誰かが来たらどうしよう。そんなことばかり考えていた。来るわけないのに」
?「会いたい、紡…じゃなくて??に」
??「分かるステラ?」
