いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて
英語教室「VIVA!」・外(日替わり)
英語のレッスンにやってきた紡。入口の前で立ち止まり、中に入るのを躊躇う。
小村、昼休みから戻ってきて、紡に気付き、
小村「黒田さん?」
紡、振り返って、
紡「あ…こんにちは」
小村「こんにちは。どうしました?どうぞ」
と、扉を開けて紡を中へ入るよう促す。
紡「あ、どうも…」
同・中
紡と小村、教室に入り、
小村「どうでした?話せました?約束した彼」
紡「習ったことは、ちゃんとできたんですけど」
小村「(笑って)」
紡「普通に会話するのはやっぱ難しいですね。全然ペラペラじゃないです」
と、本気で落ち込んでいる。
小村、その様子が面白くて笑いを堪えつつ、
小村「その彼と話してれば自然と話せるようになりますよ。こうやって授業で習うより、実践の方がずっと上達しますから」
紡、ふと気になって、
紡「…そういえば」
小村「そういえば?」
紡「小村さんは、いつから英語始めたんですか?」
小村、一瞬言葉に迷って、
小村「大学の時」
紡「あ、そうなんですね」
小村「怠惰な学生で、就活始めなきゃってときになって、アピールできるものがないって気付いて、ボランティアを…」
紡「(反応に困って)…いやいや」
小村、英語のテキストをパラパラと見ながら、
小村「知ってます?結婚してるんですよ、曽山」
紡「へぇ」
小村「幸せってことですかね」
紡「…」
哲の会社・外(夕)
哲、スマホを気にしながら、会社のあるビルから出てくる。
紡が待っているのに気付いて、
哲「つむ?どうしたの?」
紡「おこ?」
哲「ん?」
紡「藤沢くん、おこ?」
哲「何が?」
紡「藤沢くん」
哲「あぁ…紡になんか聞いたの?」
紡「代わりとか思ってない」
哲「…」
紡「好きな人いなくなったから、いる人好きになったんじゃない。絶対ない。身内が保証する」
哲「…うん」
紡「俺わかるから、ほんとに。俺のへその緒、姉ちゃんが切ってるから。だからそういうのわかるから」
哲「(微笑んで)そっか」
紡「うん…ごめん、それだけ。じゃ、バイトあるから。稼いで姉ちゃんに諸々返さなきゃだから」
哲「うん。車、気を付けてね」
紡「(笑って)いつまでそれ言うの」
哲「(笑って)ごめん」
哲、去っていく紡の姿を見送って、スマホで電話をかける。
哲「…もしもし、紡?」
歩き出して、
哲「(笑って)そうなの?俺も。なんとなく電話してみた」
藤沢家・サキの部屋
サキ、ベッドでごろごろしていると紡から着信。
サキ「(電話に出て)はーい」
紡「あ、どうも」
サキ「どうも」
サキ「もしかしてお兄ちゃんと会ってる?」
紡「会ってる」
サキ「まじかー。え、会ってる?」
紡「…あのさ」
サキ「何?」
紡「(不機嫌に)どういうつもりなの?」
サキ「(驚いて)…え、ごめん。私そんな、わざとじゃなくて、間違って教えちゃって…そもそもそこが付き合ってんの知らなかったし……」
紡「違う。藤沢さんじゃなくて、藤沢くん」
サキ「…ん?」
紡「藤沢哲くん。どういうつもりなの?」
サキ「…」
通り
歩きながらサキと電話する紡。
紡「姉ちゃんたちの邪魔しないでって、言っといて。」
藤沢家・サキの部屋
紡に電話を切られたサキ。
サキ「なにそれ…」
扉をノックする音。
サキ、返事をしないでいると、扉が開いて、
はつね「え?サキ?いるよね?」
と、茜が顔を出す。
サキ「いるけど」
はつね「(不安そうに)…ノック、聞こえなかった?」
と、軽く扉を叩く。
サキ「(小さく溜め息)聞こえた。返事しなくてごめん」
はつね「いいよ」
サキ「何?」
はつね「(一万円札を差し出して)交通費持ってきた」
サキ「(受け取って)なにこれ」
はつね「お兄ちゃんのとこに行くんでしょ」
サキ「行かないよ」
はつね「会いたがってるよ、行ってきなー」
サキ「嫌だ」
はつね「残りお小遣いにしていいから」
サキ「やった。新幹線使わないで行こ」
部屋を出ようとするはつねに、
サキ「知ってる?」
はつね「(振り返って)ん?」
サキ「お兄ちゃん、最近紡ちゃんと会ってるらしいよ。英語勉強してくれてんだって。健気ってやつ?」
はつね「…」
サキ「ありがたいけどさ…でも、なんかちょっと、イラっとするよね」
はつね「…サキ(そういうこと言わないで)」
サキ「気分良いのかな。これまで何があったかも知らないでさ。久しぶりに再会して、あなたのために一生懸命英語覚えます、って?自分はその間、哲くんと楽しく吞気にヘラヘラ生きてたのに」
はつね「サキ!」
サキ「…」
はつね、サキから一万円札を取り上げて、
サキ「え、渋沢?」
はつね「やっぱ行かなくていい。哲に余計なこと言いそうだから」
サキ「(小声で)お兄ちゃんのこと、そんなに心配?」
はつね「…」
英語教室に通っているのは哲のため?それとも紡自身のため?
英語教室に何のために通っているの?
?「先生と話してたら、哲どっか行っちゃうよ~?」
