いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて
小さなCDショップ・前の通り(夜)
一人で歩いている哲。
ふと、店が目に入って立ち止まる。
同・店内(夜)
紡、哲、?、3人レジに横並び。
哲「?、ゴミ」
?「黒田さん、ゴミだそうです」
紡「え、?さん、私に言った?」
哲「どっちでもいいから。ゴミ」
?「ですって。黒田さん。ゴミ」
紡「?、ゴミ出ししたことある?なくない?」
哲「?、つむがゴミ出しの場所教えてくれるって」
?「いえ、大丈夫です。申し訳ないんで。一人で行ってきてください」
紡「(方向を指さしながら)そっちが出たとこの、すぐ前の、あっちだから!一人で行ってきてください!」
哲「まじでどっちでもいいから行ってきてくださーい」
同・外(夜)
紡、両手に大きなゴミ袋を一つずつ持って外に出てくる。
紡に気付き、驚く哲。
紡、哲に気付かず、ゴミを捨てに歩いて行く。
紡、片方の肩からエプロンがずり落ちる。
両手がふさがってるので、ぴょんぴょんと跳ねて直そうとする。
哲「(その様子を見て)かわいい」
哲、躊躇いつつ近付いて、紡の視界に入る。
二人、目が合って、
紡「(驚いて)なに?」
哲「ん」
哲、紡のエプロンを肩にかけ直す。
紡「(エプロンや店を見て)えっと」
哲「ここで働いてるの?」
紡「(一瞬躊躇って、頷く)」
哲「似合うね」
紡「(少し照れて)ありがと」
哲「終わるの待ってていい?」
紡「いいよ。あと一時間くらいあるけど…」
と、ゴミ袋を持ったまま必死。
哲、笑う。
紡「なに?」
哲「大丈夫?」
紡「(ゴミ袋を見て)大丈夫!」
と、ゴミ袋を持ったまま、大袈裟に。
哲、くすっと笑って、
哲「(英語で)待ってるね」
同・店先~通り(夜)
急いで店を出てきた紡。
街灯の明かりの下で本を読んでいる哲。
本を持つ手元が影になる。
顔を上げると紡が本を覗き込むようにして、わざと影をつくっている。
哲「お疲れ様」
紡「うん(と、頷く)」
哲「…つむ、大丈夫だった?」
紡「大丈夫、大丈夫。久しぶりに会ってびっくりしてただけ」
哲「(頷いて)付き合ってるよね?」
紡「(照れくさそうに)うん。もう、3年くらいかな」
哲「怒ってたでしょ?」
紡「(笑って)ほんとに気にしなくて大丈夫だよ」
哲「もう二人で会うのはやめよ」
紡「え?」
紡、英語で伝えきれないと思い、
紡「ちょっと待って」
紡「藤沢くん、ちょっと勘違いしてるよ」
哲「…」
紡「私、哲のこと大好きなんだよね」
哲「…」
紡「二人で会うの、哲に悪いって思ってた」
哲「…」
紡「哲とまた仲良くしたい。私が言うことじゃないのは分かってる」
哲「…」
紡「哲くんとは、時々ご飯とか行って、話せたらいいな。何言ってんだろ。なんかもっとどうでもいい、何でもない話したかっただけだよ」
哲、スマホ画面を見つめるだけ。
紡、チラッと哲の顔を見て、泣きそうになるのを堪えて、
紡「…今好きなのは哲」
哲「…つむ」
紡「…ん?」
哲、ショックを隠し、穏やかに振る舞って、
哲「わかった。気にしすぎだった。また連絡するね」
紡「…」
この二人幸せになれるのかなって思う。
幸せってどういうことをいうのかなって。
