いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて
居酒屋・店内(夜)
哲、一人で入店。
アルバイト店員・谷秀子(21)
秀子「いらっしゃいませー、お好きな席どうぞ」
哲「生ひとつで」
と、空いているカウンター席に座る哲。
横にいる宮城すずな(37)に気付いて、
哲「あ!」
すずな「(哲と分かって)こんばんは」
哲「(お辞儀して)お世話になってます」
哲「あの、つむ…黒田って」
すずな「あぁ、黒田さん。え、黒田さんの…」
哲「…」
まじまじと哲の顔を見て、
すずな「お兄さんですか?」
哲「兄…」
と、明らかに落ち込む。
すずな「あっ、彼氏だ!彼氏!だと思いました!」
沈黙。
谷「お待たせしました!」
と、哲の前にビールを置く。
すずな「お世話になってます」
哲「お世話になってます」
仰々しくお辞儀して、乾杯するように小さくジョッキを持ち上げる二人。
すずな「黒田さん、すごい頑張ってますね。お友達と英語で話したいって(ふと気付いて)あ」
哲「それ俺のため」
すずな「前に、ここで言ってた」
哲「つむが英語で話したい人」
すずな「(頭を整理して)黒田さんの彼氏っていうのが…」
哲「俺です。今は」
すずな「…」
すずな、何となく関係性を察して、そっと席を離れようとする。
哲、すずなの手首を掴む。
すずな、軽く振り払おうとする。
哲、手に力を入れる。
すずな「(苦笑いで)商売道具なんで」
哲「話しかけてもいい?」
すずな「もう結構長めに話してますけど」
哲「名前呼んで」
すずな「あの、手」
哲、掴んでいたすずなの手を離して、
哲「すみません」
すずな、元の席に座る。
すずな「家族とか、恋人とかって、未来を見据えて一緒にいるじゃないですか。友達って、今を一緒にいる人というか。瞬間を共有して楽しむ相手?」
哲「(頷いて)はい」
すずな「友達の未来が変わっちゃうと受け入れきれないんですよ」
哲「…」
紡のアパート・前(夜)
哲、帰宅し外階段を上がっていく。
紡、哲の部屋のチャイムを何度も押している。
足音がして階段の方へ目をやると、哲がやってくる。目が合う二人。
紡に駆け寄る哲。
紡「(ん?)」
と、紡の頭にポンと手を置く。
紡、哲を見上げて、
紡「肩たたき券ちょうだい」
紡「今日使う!!」
同・中(夜)
紡、勝手に冷蔵庫を開けたりと落ち着きがない。
哲、紡がこっちを見ないので、
哲「…つむ」
と、声で呼びかける
つむ「(?に振り向いて)ん?」
哲「何しに来たの?」
紡、声だけで、
紡「元気かなーって様子見に来た(ふざけて)」
哲「…」
紡、哲と目が合って気が付く。
紡「様子見に来た。元気?」
哲「(頷く)」
紡「聞こえてる」
哲「…」
紡、「ふざけすぎた、機嫌悪いかな」と思い、話をそらす。
紡「…てつくん、大丈夫?」
哲「大丈夫」
紡「仲良しなれた?」
哲「戻れないよ」
紡「なんで?」
哲「…」
紡「私と付き合ってる?」
哲「知ってんの?」
紡「(思った返しじゃなくて少し怒りながら)…ま、もうあれでしょ。普通にどっちとも仲良くお友達に戻ればいいいじゃん」
哲「別れないよ」
紡、少しイラっとして、
紡「別にお兄ちゃんが良いならいいんだけどさ。関係ないし」
哲「関係あるだろ」
紡「謝ったら?(冗談を真顔で)」
哲「ごめん」
この二人のノリについていける者はいるのだろうか。
ついていったとしても入ったらお邪魔虫である。
?「契約ってどうなったんだろう」
??「よっ!お邪魔虫!」
