いくつ羊を数えるよりも、あなたの言葉を確かめて
[回想]サイゼ・店内(夜)
「2014年11月」
向かい合って座り、ドリンクバーのジュースを飲みながら話している制服姿の紡(17)と郊子(17)。
紡「そ。それですごい喜んでて」
郊子「あ、なんかよく聞く」
紡「そうそう、藤沢くんになついてんの。家も割と近いから」
郊子「中学一緒なんだっけ?」
紡「うん。知り合ったのは中学から」
郊子「へぇ」
郊子、ふとスマホの時間が目に入る。夜10時を回っていて、
郊子「…紡、大丈夫?」
紡「ん?」
郊子「一人暮らしなんでしょ?夜遅いし」
紡「大丈夫だよ。そんなちっちゃい子じゃないし」
郊子「そっか」
紡「そうだよね?分かるでしょ?もう一人でも別に」
郊子「帰ろっか」
紡「やだ」
郊子「帰ろ」
紡「(何度も首を横に振る)」
郊子「連絡してる?遅くなるって」
紡「してない」
郊子「電話しときなよ」
紡「電話したら帰んなくていい?」
郊子「家送ってく」
と、帰る支度を始める。
紡「はい」
と、渋々家に電話しようとすると、スマホの充電が切れる。
紡「あ」
郊子「はやく帰れってことだよ。帰ろ」
紡「うん」
[回想]黒田家・リビング(夜)
固定電話が置かれた前の壁に母親と紡の携帯番号が書かれたメモが貼られている。
紡「…」
[回想]藤沢家・近くの通り(夜)
哲(18)、部屋着でコンビニ袋を持って家へ向かって歩いている。
紡「哲くん!」
哲、声の方を振り返ると、道路の向こう側に紡がいて、
哲「紡?どうしたの?一人?」
紡、哲に向かって走り出す。
点滅していた青信号が赤に変わる。
交差点を車が曲がってきて、
哲「待って!」
[回想]サイゼ・外(夜)
店から出てきた紡と哲。
哲のスマホに紡から着信。
哲「あ、つむ(と紡にスマホを見せる)」
紡「ほんと仲良いねー」
哲「(電話に出て)もしもし…黒田?一緒だけど」
紡「(小声で)ん?私?」
哲「(紡を見て)…え」
紡「…」
[回想]藤沢家・哲の部屋(夜)
紡と哲、部屋に帰ると、朝日がいて、
紡「(朝日に)ごめん」
朝日「俺はいんだけど…」
と、哲に目をやる。
哲「(紡と目を合わせず)」
哲「お母さん、今日も帰るの夜中でしょ?この時間になるなら、言っとかないと。不安がるって」
紡「うん、ごめん。哲ごめんね、帰ろ」
と、哲の手を取るが、
哲「やだ」
と、紡の手を振り払う。
紡「藤沢くんにも迷惑だから、」
哲「やだ」
と、哲にしがみつく。
紡、イライラしてしまって、
紡「わがまま言わないでよ」
哲、またぐずぐず泣き出して、
哲「(紡を気にして)黒田」
紡「私、哲のお母さんじゃない」
と、紡も泣きそうになっていて。
それまで黙っていた哲、紡の前に来て、
哲「ごめん」
紡「…」
哲「俺が引き留めちゃって」
紡、「いいよ」と哲の袖を掴むが、哲も「いいから」と。
紡、嘘だとわかっていて、
哲「朝日ごめん、帰って」
紡「…」
哲「ごめんね」
と、紡の顔を覗くように一歩近付くと、
紡、哲の肩を力強く押して拒否する。
哲「…」
紡「ちょっと、哲…」
哲、何も言わず、紡にしがみつく。
哲「…黒田」
哲「…」
紡「哲、お腹減ってる。なんか食べて。ね?」
哲「…黒田、いこ」
紡、哲と目が合って、
紡「ごめん、ありがと」
紡と哲、部屋を出ていく。
哲「よし。お腹減ったね。何食べたい?」
紡「哲くん」
哲「哲くんは食べられません」
紡「哲くんでよかった」
哲「なにが?」
紡「彼氏」
哲「言っちゃだめだよ」
朝日、静かに帰っていった。
suddenly
紡のアパート・中(夕)
部屋で二人になった紡と哲。
哲、机に突っ伏している。
紡、哲の肩を叩く。
哲「(顔を上げて)ん?」
紡、【帰るね】と書かれたスマホの画面を見せる。
哲「…」
哲、軽く会釈して、帰ろうとする。
紡「だめ」
と、哲の腕を掴む。
哲「(振り返って紡を見る)…」
紡「多分二人、外で話してる。藤沢くん邪魔だから。邪魔しないで」
哲「誰かいるの?」
?「オレだよオレオレ」
?は寒さの中、立っている朝日の隣にいた。
そこに通りがかるマイ。
マイ「やほ!」
いつも明るいマイに癒された朝日であった。
