【後編】宇宙データセンター実現への技術的挑戦と、日本が握る「エネルギー輸送」の鍵

前編では『「プロジェクト・サンキャッチャー」始動!AIのエネルギー問題を解決する「宇宙データセンター」の全貌』と題して、その概要とエネルギー効率における合理性を解説した。しかし、宇宙空間にデータセンターを構築するには、真空、無重力、そして放射線といった過酷な環境を克服しなければならない。 様々な指摘が飛び交ってはいるが、既にGoogleが公開したプレプリント論文「Towards a future space-based, highly scalable AI infrastructure system design」の中で、これらの課題に対する具体的な技術的解法が示されている。ここでは資料を分かりやすく紐解いていく。早速確認していこう。

【技術的障壁その1】データセンター級の通信速度

地上のデータセンターと同等のパフォーマンスを出すには、分散されたプロセッサ間で「毎秒数十テラビット」級の超高速通信が必要となる。Googleはこの課題に対し、DWDM(高密度波長分割多重)トランシーバーと空間多重技術を用いた「自由空間光通信(レーザー通信)」で解決を図るという。しかし、これには通常の衛星通信の数千倍の受信電力が必要となる。 そこでGoogleが導き出した解は、衛星同士を「キロメートル単位、あるいはそれ以下」という極至近距離で編隊飛行(フォーメーションフライト)させることだ。距離を縮めることで信号の減衰を防ぎ、リンクバジェット(通信品質)を確保する。すでにベンチスケール(実験室レベル)の実証機では、片道800Gbps(双方向1.6Tbps)の伝送に成功しているという。

【技術的障壁その2】精密な軌道制御

24時間365日稼働できるようにするため、衛星群は「夜明け・夕暮れ(Dawn-Dusk)」の太陽同期軌道に投入されることになる。ここは常に太陽光が当たり続ける特等席だ。 シミュレーションによると、高度650kmで81基の衛星をクラスター(群れ)として運用する場合、衛星間の距離はわずか100〜200メートル程度になる。地球の重力場や大気抵抗の影響を受ける中でこの距離を保つのは至難の業に思えるが、Googleの物理モデル解析によれば、意外にも「控えめな軌道修正操作」だけで安定した編隊を維持できることが判明した。

【技術的障壁その3】放射線への耐性

宇宙空間では、強力な宇宙放射線が半導体を破壊するリスクがある。Googleは同社の最新AIチップ「Trillium(第6世代TPU)」を67MeVの陽子線ビームにさらす実験を行った。 その結果、高帯域幅メモリ(HBM)は比較的敏感であったものの、5年間のミッションで想定される被曝量の約3倍に相当する2krad(Si)までは異常が見られず、チップ自体は15krad(Si)までハードウェア故障を起こさなかった。これは、民生用の最先端AIチップが、予想以上に宇宙環境に適応できる可能性を示唆している。

経済的合理性と日本の技術

かつて宇宙開発の最大のネックは「打ち上げコスト」だった。しかし、スペースXのスターシップに代表される再使用ロケットの進化により、コストは劇的に低下している。Googleの試算では、2030年代半ばには打ち上げコストが1kgあたり200ドル以下になると予測されている。この水準になれば、宇宙データセンターの構築・運用コストは、地上のデータセンターのエネルギーコストと同等レベルになり、経済的にも十分にペイすることになるだろう。

一方で、Googleが「宇宙で計算して結果だけを地上に送る」のに対し、日本企業は「宇宙のエネルギーそのものを地上に送る」という画期的な技術で世界をリードしている。 NTTや三菱重工業、JAXAが進める「宇宙太陽光発電(SSPS)」の研究では、宇宙で発電した電力をマイクロ波やレーザー光線を使って地上へ無線送電する実験が進められている。特にレーザー送電技術は、Googleが衛星間通信で用いる技術とも親和性が高い。

AIとエネルギーの未来

Googleの「プロジェクト・サンキャッチャー」は、AIの進化を持続可能なものにするための現実的なエンジニアリング・プロジェクトと言えるだろう。2027年の実証実験を経て、将来的にはギガワット級の巨大な宇宙AIインフラが構築されるかもしれない。

イーロン・マスクが夢見たエネルギー革命、Googleが実装する宇宙計算基盤、そして日本が磨く無線送電技術。これらが交差する場所で、人類はエネルギーと知性の制約から解き放たれようとしている。我々は今、その歴史的な転換点を目撃しているのである。

宇宙データセンターや無線送電技術についての新しい情報が入り次第、また解説の記事をまとめたいと思う。引き続き、AIと発電問題に注視していきたい。

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青山曜

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