小説を書きました。(芸人の恋)中編

「ふざけるな……ッ!」 絞り出すような大吾の怒声が響く。 「そう熱くなるなって。今は笑われててもさ、いつか実力で笑わせる日が来るから」 「いつかって、いつだよ。……明日か? 一年後か?」 「それは、その……いずれ、だよ」 「そんな曖昧な言葉で納得できるか。このままバカにされ続けて終わるなんて、耐えられないんだよ」

「なら、この女性をお前の喋りで笑わせてみろよ」 良平は突き放すように言った。 大悟が押し黙り、美里が不思議そうに二人を見比べる。一瞬の静寂。勝った、と良平が確信した直後、大悟はあっけらかんと言い放った。 「今はこっちの問題が大事なの!」 鮮やかなまでの方向転換。置いてけぼりにされた良平の中に、無視された不快感がこみ上げる。 (……チッ、またそうやってはぐらかすのかよ)

「とりあえず、美里はどうしたい?」 大悟は眉を下げて、いかにも親身な様子で問いかけた。 「一度話し合いたい……。でも、彼、キレると怖いところがあって……」 不安げに視線を落とす美里。その守ってあげたくなるような表情に、大悟の心臓が跳ねた。(可愛い……!) 「いいよ、美里が納得するまで俺が味方になるから。……ねえ、これも何かの縁だし友達にならない? LINE交換しようよ」 「……うん、わかった」 (よしっ、LINEゲット!) 心の中で激しいガッツポーズを決める大悟。その様子を横で見ていた良平は、深いため息をついて呆れ顔を隠さなかった。 「……おい、今後の俺たちのことも考えとけよ」 吐き捨てるようにそう言い残すと、良平は一人その場を後にした。

「よし! 今すぐ彼氏に電話して、会う約束を取り付けよう!」 大悟が勢いよく提案すると、美里は驚いて目を丸くした。 「えっ……今?」 「そう、今。この溢れそうな気持ちをそのままぶつけちゃうのが一番だよ」 大悟の熱に押されるように、美里は小さく頷いた。「……わかった」

震える手でスマホを操作し、スピーカーから呼び出し音が鳴る。数回のコールの後、低く不機嫌そうな男の声が響いた。 『……美里か。なんだよ、別れるって言っただろ』 蓮の冷淡な声に、美里の瞳がみるみる潤んでいく。 「だって、あんなの納得できない……! お願い、最後でいいから、ちゃんと会って話したいの」 美里は声を詰まらせながら訴えた。電話の向こうで、蓮の大きなため息が聞こえる。 『……わかったよ。だったら、○○公園まで来い。それで最後だぞ』 「……ありがとう、わかった」

美里が震える手で通話を切ると、大悟が力強く肩を叩いた。 「よし。俺は隠れて見てるからさ。何かあったらすぐに助けに入る。……安心しろよ」

指定された○○公園。夜の静寂(しじま)の中、美里は一人、街灯の下で蓮を待っていた。すぐ近くの茂みでは、大悟が息を潜めて様子を伺っている。 やがて、足音が近づいてきた。だが、現れた蓮の姿を見て、二人は言葉を失った。

蓮の隣には、派手な化粧に露出の多い服をまとった、いかにも夜の街で働いていそうな女性がぴったりと寄り添っていたのだ。

美里は顔を引きつらせ、絞り出すような声で尋ねた。 「……蓮、その人は?」 蓮は美里と目を合わせようともせず、隣の女の肩を抱き寄せた。 「これから俺が付き合う人。……美里、悪いけどそういうことだから」 「嘘、そんなの嫌! 蓮と離れたくない……!」 耐えきれず、美里は蓮の腕に縋(すが)りついた。しかし、蓮はその腕を冷酷に振り払う。 「しつこいんだよ。……どうしても俺と付き合いたいって言うなら、金を持ってこい。話はそれからだ」

「お金なんて……そんなのないよぉ……」 美里は涙で視界を滲ませながら、すがるように再び蓮へ一歩踏み出した。

その瞬間、蓮の表情から温度が消えた。 「チッ、うぜえんだよ!」 蓮は美里を突き放すどころか、大きく拳を振り上げた。容赦なく彼女を殴りつける構えだ。街灯の光に、冷酷な蓮の横顔が浮かび上がる。

茂みの中でそれを見ていた大悟の心臓が、ドクンと跳ねた。

「待てよ! 女の子に手ぇ出すなんて最低だろ!」 大悟は叫びながら、茂みから猛然と飛び出した。

だが、蓮の拳の方が速かった。 「がふっ……!」 鈍い衝撃が顔面に走り、視界が火花を散らす。大悟の体は力なく地面に崩れ落ち、そのまま意識は深い闇へと沈んでいった。

……。 どのくらいの時間が経っただろうか。待てよ! 美里に「……痛(い)てて。おい、大丈夫か? ……って、何笑ってんだよ」 頬をさすりながら起き上がる大悟に、美里はこらえきれないといった様子で吹き出した。 「あはは! ごめん、ごめんなさい。……だって、その顔があまりに面白くて」 「うるせぇな。人が体張って助けに入ったのに、そんなに笑えるかよ」 「うん。最高に笑える」

美里は一瞬だけ考える素振りを見せると、今度は一転して、一点の曇りもない真顔で言い放った。 「……ねえ。そんなに人を笑わせるのが好きなら、いっそお笑い芸人にでもなったらどう?」

その言葉を聞いた瞬間、大悟の目がスッと座った。 「…………もう、なっているよ」 「…………えええっ!?」

静まり返った夜の公園に、美里の驚愕の叫びがこだました。

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大和千広

はじめまして大和千広と申します。名言とドラマとバラエティが好きで自分なりの考察や記事にしていきたいとおもいます。たまに独断と偏見が混じっているかもしれません。温かい目で見てもらえると幸いです。

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