ふと、見上げると空が高くなっている。
ふいに、赤とんぼが草むらから現れる。
ふわり、金木犀の香りと街ですれ違う。
マクドナルドがお月見をはじめる。
料理に芋・栗・キノコが顔を出す。
メディアから行楽特集があふれ出す。
今年も秋がやってきた。
秋は四季の中でもすごしやすいので好きだ。でも年々、その姿は小さくなってきている。待てども、待てども残暑が続いて、秋がやってこないのだ。もう10月だというのに、最高気温は25度を上回る。何処へ秋は行ったのかと探すと、朝と夜だけ現れて、お日様が昇ると猫みたいにサッといなくなる。これでは木の葉も色づかない。秋刀魚だって暑くてやってこない。蝉がまだ鳴いていて、トンボやキリギリスも驚いているだろう。金木犀はこんな熱風に当たれば、自分の香りの品が落ちると怒っているかもしれない。
こうして秋があまり働かないで、夏にずっと残業させているのには理由がある。秋は毎年、北風を吹かせてトンボと鱗雲の連隊を空に飾っている。また、あちこちに紅葉の絨毯を敷き、キノコを活けて人間たちに秋の訪れを大声で告げている。しかし秋の努力はむなしく、こういった大掛かりな仕事にたいして人間はいつも「ちいさい秋、ちいさい秋」と悲しげで仕事を過小評価するような歌を歌う。これに怒った秋はだんだんと仕事の手を抜くようになったのだ。加えて人間たちが歌ったとおりに、秋の訪れを残暑で覆い小さく丸めて世に出すようになった。
これが秋がなかなかやって来なかったり、年々その期間が短くなっている理由である。とはいえ、昔と大きく変わり「小さい秋」と歌う人間はもう少なくない。だから秋には怒りを鎮めてほしいと思う。十月にもなって暑気あたりになったり、急な寒さに体が慣れない、秋刀魚や鮭が採れない。などなど、人間たちは大いに困っているのだ。かくいう私も、浴衣からそろそろ単衣の着物に衣替えしたいのだができずに困惑している。また、金木犀の香りを熱風が運び、夏の学校のトイレにいるような気分になったりしている。大変不快で仕方がない。
だから早く、秋には機嫌を直して秋らしく振舞ってもらいたいものだ。
2022年10月2日