宗教改革と教会音楽

今回は、以前ご紹介したルネサンス音楽の続き、後期ルネサンス期に起こった宗教改革の影響でどのように音楽が変容していったかをご紹介いたします。

・宗教改革とは

1517年のドイツの教会では、サン=ピエトロ大聖堂の大改修の費用のために贖宥状が販売されていました。贖はあがなうこと、宥はゆるしを意味していて、罪の許しをお金であがなうとされていました。資金集めのために都合のいい理屈を作っていた教会の姿勢を問題視したのが、神学者のマルティン・ルターです。

同じく1517年、ヴィッテンベルク城内の教会の門扉に『九十五カ条の論題』を発表して批判しました。それが宗教改革のはじまりです。

・「コラール」

まず、ルターは、ラテン語でしか書かれていなかった聖書をドイツ語に翻訳しました。

ラテン語というのは学問の言葉で、専門教育を受けていない民衆は読めませんでした。民衆は、教会や神官からしか聖書の内容を知りえなく、贖宥状のような買ったら救われるという甘い言葉を信じてしまうような状態でした。

これでは信者が騙され続けてしまうと考えたルターは、民衆が普段使っているドイツ語に翻訳して活版印刷で世の中に聖書の内容を広めていきました。

そして、ルターは、聖書だけでなく教会音楽の歌詞もドイツ語に翻訳しました。

そして歌詞に合わせて自ら作曲しました。教会音楽は専門の合唱団が歌う音楽だったため、歌の技術の訓練を受けないと歌えないような専門的な音楽であったため音楽を知らない一般的な信者でも歌えるような簡単なメロディーに変え、ドイツ語に合わせた力強いメロディーに古い宗教民謡やカトリック聖歌や俗謡の要素を加えた新しい教会音楽を作りました。それがコラールです。

ルターが作曲したコラールを聴いてみましょう。

新聖歌280神はわがやぐら 詞・曲 マルティン・ルター Ein’ feste Burg ist unser Gott

このコラールは現在日本の教会でも歌われている名コラールで、バッハをはじめとするドイツ・プロテスタント作曲家の創作の中核をなすものでありました。

フランスのカルヴァン派は音楽に対して偏狭な姿勢でしたが、ドイツのルター派はルターが音楽に深い関心と理解を持ち、以前の記事でも紹介したジョスカン・デ・プレなどを愛唱する好楽家でもあったことからか、音楽に対して開かれた態度であったため、その後のドイツ音楽の発展にはかりしれない好ましい影響を与えることになり、次代のハインリッヒ・シュッツや大バッハなどのすぐれた音楽作品を生み出す土壌を用意することになりました。

・カトリック教会の音楽の変容

批判を受けたカトリック教会側も内部改革を余儀なくされ、1545年~1563年、トレントで公会議が開かれました。

そこで教会音楽の現状も議論の的となりました。

それまでのルネサンス期の教会音楽は、以前の記事でご紹介したように、フランドル楽派の複雑に入り組んだ技法のポリフォニーの曲が多く、複雑すぎて典礼音楽として必ずしも適切ではないという見方がありました。また、音の絡み合いが複雑になればなるほど、それに乗せられる言葉は聞き取りづらくなる上に、歌詞の中に恋のシャンソンの引用があったりと典礼の立場からいうと歓迎されるべきことではなく、教会の礼拝であるのか音楽会なのかわからないようなこともあり教会当局としては具合が悪いことだったようです。

そこでトレント公会議では、議論の中で単旋律のグレゴリオ聖歌しか認めなければよいのではという強靭な意見も出るぐらいでしたが、最終的には穏健な線に落ち着き、複雑でないポリフォニーは認められ、フランドル楽派の作ったような複雑なポリフォニーと恋のシャンソンを引用した定旋律は禁じられ厳粛で純粋な典礼のための音楽を目指す事になりました。

・変容した時代の要請に応えたパレストリーナ

ジョヴァンニ・ピエルルイジ・パレストリーナは公会議の決定後に変容を余儀なくされた教会音楽の時代を代表する作曲家です。

パレストリーナの代表的な曲を聴いてみましょう。

パレストリーナ 「教皇マルチェルスのミサ曲」 タリス・スコラーズ Missa Papae Marcelli

この曲は、トレント公会議のグレゴリオ聖歌のような単旋律の音楽しか認めないというような強靭派をおさえ、典礼にふさわしいポリフォニー・ミサ曲の存在が可能であることを証明するために作曲されたとも言われています。

パレストリーナの作品の純粋さは、この時代の要請にかなうべく、意識して人工的に作りあげられたもので、たとえばジョスカン・デ・プレの純粋さとは次元を異にしています。

また、パレストリーナの音楽書法は、17世紀のフックス著の対位法教科書「グラドゥス・アド・パルナッスム」の範例となって、若き日のハイドンやベートーヴェンらの教材となりました。

(まとめ)

今回は、後期ルネサンス期のドイツとイタリアの音楽が宗教改革の影響からどのように変容していったかをご紹介しました。

ルターのコラールなどは今日わたしたちが讃美歌として聴いているものに近い感じがしました。

歴史の授業で習った宗教改革のルターがこれだけ音楽に影響を与えていて、その音楽にたいする開かれた姿勢がその後のバッハなどのドイツの音楽発展に影響していると思うとすごく驚きました。

今後は、この時代の古楽器についてもご紹介できればと思っていますのでお楽しみに!

〈参考資料〉

・厳選クラシックチャンネル:「中世・ルネサンス音楽の特徴を解説」

・皆川達夫:「中世・ルネサンスの音楽」

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yukinco

好きな音楽についての記事を書かせて頂きたいと思っています。 興味の方向があちこちに飛ぶタイプなので、ジャンルなどは脈絡はないですが、あまり知られていない分野が多いので少しでも関心を持って頂ければ幸いです。 よろしくお願いします。

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