今回は、楽譜が現在まで残っている最古の音楽、「セイキロスの墓碑銘」をご紹介したいと思います。
・音楽の記録
音楽は、時間の芸術とよく言われますが、楽譜や録音技術が発展する前の太古の時代は、その場で演奏されたら消え去ってしまい、聴いた人々の記憶の中にしか存在が残らないものでした。
美術の世界では、スペインのアルタミラ洞窟やフランスのラスコー洞窟に動物や狩猟の画が残されていて、文明の発展以前の原始時代の美術がそのまま残っていますが、音楽はそうはいきませんでした。
文明が始まり、記譜法が開発された後のものでも、楽譜は古代の楔形文字の石碑などが発見されていましたが、断片的なものでどのような音楽作品なのか長い間全容は謎のままでした。
・現存する最古の楽譜
しかし、1883年にトルコのアイドゥン近郊で鉄道工事の際に発見された紀元1世紀頃の墓石に、詩と共に古代ギリシャの記譜法による楽譜が刻まれていました。これは通称『セイキロスの墓碑銘』と呼ばれています。
この「セイキロスの墓碑銘」は完全な音楽作品の楽譜としては現存最古のものになります。
・どんな音楽?
ここで「セイキロスの墓碑銘」の演奏を聴いてみましょう。
歌詞の内容は、
“生きているうちは輝いていて下さい
決して思い悩んだりしないで下さい
人生は束の間だから
時がその終わりを求めているから”
現代人の心も打つ、普遍的な内容で素晴らしいですよね。
心が弱ってくると、ついつい過ぎたことを思い煩ったり、将来への不安で頭がいっぱいになったりして気持ちが荒んでくることがよくありますが、古代人からのメッセージを受け取り、今を輝いて生きることに集中しようと思えました。
・まとめ
神秘的なような、とても美しいこのメロディと共にこの詩が奏でられると、古代からのメッセージが現代の私の気持ちにスッと入ってきて、何千年前の古代の人の気持ちに共感して繋がったような気がしました。
古い時代の作品が再現できるというのはとても貴重なことだと再認識させられました。
[セイキロスの墓碑銘:デンマーク国立博物館所蔵]