昭和歌謡に魅せられて(仮)。~荒木一郎を知っていますか(その3)「めぐり逢い(めぐりあい)」~シンガー=ソングライターの、新たな試み

アーティストとしての荒木一郎さんの活動が最盛期を迎えていた1968年。

世はまさに、グループ・サウンズ=GSブーム一色になろうとしていました。

荒木さん自身、そういったムーヴメントに呼応した「いとしのマックス」などをヒットさせていたわけですが、ただ、その流れとは多少の距離を置いて活動していたような印象があります(荒木さんには“マグマックス5”というバックバンドもありましたが、単体でもデビューを果たしていたランチャーズと共に活動を続けた加山雄三さんとは異なり、荒木さんのマグマックス5との活動は、ごく限定的なものにとどまりました)。

1967年12月から、GSブームが衰退に入った69年1月までの間に、荒木さんは6枚のシングルをリリースしていますが、時代のトレンドに呼応したものは「トンネル天国」などで知られるダイナマイツがコーラスで(演奏も?)参加している、軽いビート感がイカす「Blue Letter(ブルー・レター)」、モップスの「朝まで待てない」へのアンサーソングのようでもある、激しい曲調の「朝まで待とう」くらいで、あとはいわゆる“通常運転”でありました。

その「朝まで待とう」のシングルに、カップリング曲として収められたのが、“シンガー=ソングライター・荒木一郎”にとっての新たな試みとなった「めぐり逢い」でした。

工業都市・川崎を舞台に、ふと出会った若い男女(黒沢年男〈のちに年雄〉さん・酒井和歌子さんのコンビが熱演)が、時に傷つき、現実の壁にぶつかりながらも愛を育ててゆく姿を感動的に描いた東宝映画『めぐりあい』(恩地日出夫監督)の主題歌として制作されたこの「めぐり逢い」の作曲は、現代音楽の大家として世界的に有名である一方で、映画音楽などにも積極的に取り組んでいた武満徹(たけみつ・とおる)さんによるもので、ここでの荒木さんは作詞と歌のみを担当。『めぐりあい』全編を通して流れる、武満さんによる美しいメロディーに、映画の内容をベースに置いた歌詞をつけ、いつにも増してナイーブに、情感をこめて歌唱しています(荒木さんの歌入りバージョンは、映画のオープニング部分で流れます)。シングルは1968年3月、映画公開に少し先がけての発売でしたが、メディア等ではあまり流れない扱いのカップリング曲になってしまったことが、非常に惜しまれます。

映画『めぐりあい』も、主題歌に負けず劣らずよくできた愛すべき作品ですが(廉価盤DVDあり、DVDレンタルなし。動画レンタル配信あり)、その主題歌「めぐり逢い」もまた、今日に至るまで愛され続けており、石川セリさんをはじめ、数多くのカバー・バージョンが存在しています。

荒木さんの“新たな試み”は、さらに続きます。

GSブームがピークを迎えていた68年8月には、その2年近く前、比較的地味なアレンジで、ファースト・アルバム『ある若者の歌』に収録されていた楽曲「海」を、ぐっと深みを増した重厚なアレンジで新たにレコーディングし、シングルとしてリリース。

続く11月には、以前から親交のあった平尾昌晃さんの作曲、「翼をください」などで知られる山上路夫さんの作詞によるロマンチックかつセンチメンタルな楽曲「あなたに寄せて」を、ひとりの歌い手に徹する形でシングル発売します。

これらのシングルは、「空に星があるように」や「いとしのマックス」のような大きなヒットにはなりませんでしたが、「海」はある意味、GSブームに対する、荒木さんからの音楽的見解、あるいは回答のようでもありますし、「あなたに寄せて」での平尾昌晃さんとのコラボレーションは、70年代に入ってからより具体性を帯び、“作詞:荒木一郎、作曲:平尾昌晃”という組み合わせによる楽曲が、いくつか制作されるに至ります。

さて、1969年に入ると、あるひとつのアクシデントにより、それまで続いていたラジオ番組『星に唄おう』をはじめ、レコードの制作・発売といった、荒木さんをめぐる芸能活動のほとんどすべてがストップするに至り、荒木さんの活動は、窮余の一策として制作・販売されたミュージック・テープ『Z.pac 荒木一郎の世界』(※ミュージック・テープにはカセットテープ、および8トラックテープの2種類があり、既存のレコード店以外に、ガソリンスタンドなどにも販路があった。『Z.pac 荒木一郎の世界』は、かなり後の時代までスナックなどのカラオケに使用されていた、8トラックテープで発売。一連のヒット曲の再録音、これまでレコード化してこなかった楽曲、また後に新たにレコーディングされることになる楽曲などで構成された。このテープは後に複数回、さまざまな形でCD化されている)を除き、ほぼ手詰まり状態となり、1971年までおよそ2年間、荒木一郎さんは音楽界、およびマスコミの表舞台から姿を消すことになりますが、その71年にはビクターから最後のアルバムを発売。そして74年に入るとトリオと契約し、コンスタントにアルバムおよびシングルをリリース。そういった中から生まれた新たな名曲が「君に捧げるほろ苦いブルース」だったのです。 (了)

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しんのすけ1965

昭和歌謡などの音楽以外にも、さまざまに興味を持っています。そういったあたりも、どしどし出していけたらいいなぁ………なんて、思っております。

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