昭和歌謡に魅せられて(仮)~作曲家・筒美京平さんのソロ・ワークスから(その1)。

筒美京平さん………、1960年代の弘田三枝子さん、いしだあゆみさんから、2000年代のTOKIO、中川翔子さんまで、ヒットメーカーであることにこだわり続け、その後もその晩年まで、声優さんなどへの楽曲提供を続けたその姿勢は、やはりどちらかというと「裏方に徹する」ものでしたが、そんな京平さんも、時にアーティストとしての姿をみせることがありました。

ここでは、少年時代にピアニストを志し、作曲ももっぱらピアノで行なっていたという京平さんの、数少ないながらもそれなりに潤沢な、ソロ・ワークスにおける足跡について、いくつかの作品や楽曲を通して、見つめてみたいと思います。

京平さんのソロ・ワークスの始まり、その最初期については、資料・音源ともに残されているものがきわめて少なく、おおむね、こういった作品があったようだ、といったことしか把握できないのですが、その主なもののひとつとして、ちょうど1960年代後半あたりからその需要が増えはじめた、カセット、もしくはカートリッジの“音楽テープ”“ミュージック・テープ”のための仕事があったようです。
それらの作品は、今日では大元の音源の大部分が散逸してしまい、たとえば各メーカーのカタログなどに「こういったアルバムがあった」という記述があっても、それを確認することがきわめて困難だったりするようなのです。
ともかく京平さんは、そういった仕事をなかばアルバイトのような感じでこなしつつ、日々作曲家としての腕を磨いていたのでしょう。

そういった日々の中、やがて複数のレコード会社からも仕事の依頼が舞い込んでくるようになります。その頃になると京平さんも、徐々にヒット曲を世に送り出し、そういったことから「これは商売になる」と見込まれて行った、ということかと思われます。

京平さんのキャリアを見ていくと、作曲家デビューが1966年、ヒットが出はじめたのが1967年、そして1968年の終わりに発売された、いしだあゆみさんの「ブルー・ライト・ヨコハマ」が自身初のミリオンセラーとなって、このあたりから仕事の依頼が殺到することになるわけで、各レコード会社からの、いわば“ソロ・アーティスト=筒美京平”に対するオファーも、この時期から盛んになって行きます。

そういった中、1968年に、キングレコードから、まったく異なったスタイルの、2枚のアルバムがリリースされます。

ひとつは、たとえば由紀さおりさん・安田祥子さんの“安田シスターズ”が、長年うたい続けてきたような「童謡・唱歌」を、小編成のオーケストラをバックにしたピアノ・ソロで聴かせる『ピアノが歌う 幼い日』(余談ですが、由紀さおりさんと京平さんの接点は、楽曲提供もなく、少ないながらもなかなかに興味深いもので、あのTVアニメ『サザエさん』の主題歌を由紀さんが歌うことが一時検討されていたり、近年では、世界的な大ヒット・アルバムとなったピンク・マルティーニとの共演作『1969』の中で「ブルー・ライト・ヨコハマ」「真夜中のボサ・ノバ」の2曲をカバーし、筒美京平作品に新たにスポットが当たることになるなど、その折々にトピックが形作られてきました)。

このアルバムでの京平さんのプレイ・スタイルは、エルヴィス・プレスリーをはじめ、数多くのアーティストとレコーディングを共にし、ひとつのスタイルを築いた名ピアニスト、フロイド・クレーマーを意識した、端正でのびやかな弾き方で、「七つの子」「夕やけ小やけ」といった「和のなごみ」の世界に「洋のなごみ」を持ち込むという、「洋食にしょうゆをちょっとだけ……」みたいな、京平さんの自作曲によくみられる作風を連想させなくもないものです。

オリジナル・アナログ、これをCD化して全曲収録した『筒美京平ソロ・ワークス・コレクション キング編~ポップ・スタイル』、ともに入手困難ですが(このあとご紹介するアルバムの大部分も同じ状況です…)、サブスクリプション配信で聴くことは可能です。

もうひとつのアルバムは、その時点でヒットしていた曲や、発売元のキングレコードが推していた歌謡曲、そして洋楽のヒット曲を、それぞれ半分ずつ取り上げてカバーした『チェンバロ・デラックス 恋の季節』
ここで登場する「チェンバロ」とは、バロック音楽などで多用された、打楽器の要素が大きい鍵盤楽器で、そもそもピアノも打楽器の一種ではあるのですが、チェンバロはピアノ以上に繊細でシックな音色が出ることから、60年代後半にもてはやされ、京平さんも「ブルー・ライト・ヨコハマ」をはじめとするご自分の作品の中で、特に好んで用いていました。
このアルバムではそのチェンバロを京平さんご自身が弾き、アレンジも行なっています。
この『恋の季節』の時点では、京平さんの自作曲はごくわずかですが、中ではヴィレッジ・シンガーズに提供した「星が降るまで」が珠玉の仕上がりとなっています。
自作曲以外では「尊敬している作曲家」と語っていた浜口庫之助さんの作品(「愛のさざなみ」「みんな夢の中」など)のアレンジに、特に力が入っているように感じられます。
『チェンバロ・デラックス』は、セールス面でも好調だったようで、このあと翌69年まで全部で3枚、リリースされることになります。3作めでは「筒美京平作品集」というサブタイトルもつけられ、全曲、京平さんの自作曲で構成されました。
この『チェンバロ・デラックス』シリーズの全収録曲も、『ピアノが歌う 幼い日』と共に、『筒美京平ソロ・ワークス・コレクション キング編~ポップ・スタイル』に収められ、サブスクでも聴くことができます。


次回は、さらに世界を広げてゆく筒美京平さんのソロ・ワークスを、あるふたつの視点から見てみることにしましょう。(つづく)

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しんのすけ1965

昭和歌謡などの音楽以外にも、さまざまに興味を持っています。そういったあたりも、どしどし出していけたらいいなぁ………なんて、思っております。

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