どんなジャンルのどんな歌でも(自分の)ものにしてしまう、そのスーパーテクニックから《歌怪獣》の異名も持っている(「名付け親」は、マキタスポーツさんだそうです)、演歌歌手・島津亜矢さん。
本稿では“あやや”と呼ばせていただいている彼女が取り組んでいるカバーアルバム『SINGER』シリーズを紹介していくこのシリーズ、2013年リリースの第2作『SINGER2』に入りました(ここでちょっと余談ですが、CDケース裏面の写真で、“あやや”はAKB48風のコスチュームを着て、ステージ上に立っています。リハーサルの途中だったのか、少しうつむいています。ちなみにこのシリーズ通して(第8作まで)、AKB系列、あるいは「坂グループ」の楽曲は収録されていません…)。
さて、まずは今回も「洋楽を英語のままカバー」から入ります。
言わずと知れた『タイタニック』の主題歌「My Heart Will Go On」。
ここでの“あやや”は、独自色を出すことよりも「いかにしてオリジナルに迫れるか」、という課題に取り組んでいるように思え、そしてそれは、ほぼ達成しているように感じられます。
その圧倒的な迫力と感動は、オリジナルと遜色(そんしょく)ありません。
誰よりもまず、セリーヌ・ディオンに聴かせたい1曲です(“あやや”はこの後も、セリーヌの楽曲のカバーに取り組んでいます)。
この後も、おなじみの楽曲がズラリと並びます。
渡辺真知子さんの「かもめが翔んだ日」、もはや余裕ですね。
アレンジもユニークかつダイナミックです。
松田聖子さんの「SWEET MEMORIES」、ほぼ完コピ&完璧と言っていいでしょう。
キュート!
故・大橋純子さんの「シルエット・ロマンス」、貫禄すら感じさせる歌いっぷりです。
そして、日本ではドラマ『スクール★ウォーズ』の主題歌としておなじみとなった、麻倉未稀さんの洋楽カバー「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」。
いわば“カバーのカバー”ですが、ここでは馬力のある“あやや”のパワー・ヴォーカルが炸裂しています。
続いては、高橋真梨子さんが在籍していた時期のペドロ&カプリシャスのヒット曲「ジョニィへの伝言」。
これまたユニークなアレンジをバックに聴かせます。
オリジナル・シンガーの松崎しげるさんいわく《不滅の名曲》・「愛のメモリー」。
サビの部分の歌い方が、オリジナル・レコーディングではなく近年のものを参考にしたと思われるところはご愛敬ですが、キーを少し下げているとはいえ、これまた余裕で歌いこなしてしまうあたり、《歌怪獣》の異名も伊達じゃない! おそれ入ります。
さて、『SINGER2』・「A面」の最後は、美空ひばりさんのカバーなのですが、ひばりさんご自身にとってもまったくの異色作となった「一本の鉛筆」。
松山善三さん(高峰秀子さんのご主人)作詞・佐藤勝(まさる)さん作曲という、当時の日本映画界を代表するふたつの才能が手を組んで生み出された『反戦歌』です。
この“あやや”が歌う「一本の鉛筆」は、ひばりさんの「アク」とか「クセ」、そして何よりひばりさんが歌っていることによって生じる「先入観」、そういったものをすべてそぎ落とした形で成り立っています。
その分、素直に「なにか」を感じることができるものと思います(この「一本の鉛筆」という楽曲については、また改めて取り上げることもあろうかと思います)。
「B面」に入ります。
パーシー・スレッジの代表曲にしてR&Bクラシックス「WHEN A MAN LOVES A WOMAN(男が女を愛する時)」。これも英語のまま、歌います。
わりと近年、マイケル・ボルトンがリバイバル・ヒットさせたので、そのラインからのセレクトかもしれません。
正直申し上げて、ここでの“あやや”の英語の発音や歌詞の正確さにはいささか難があり、それはこの後登場する「英語のままの洋楽カバー」の一部にも共通して言えることではあるのですが、“あやや”は成長を続けておりますので、順を追って聴いて行くと、そのあたり納得がゆくのではないか? と、わたくしは思っております。
なお、“あやや”の「うた」そのものは、パンチがきいていて、なかなかのものです。
次いで、研ナオコさんが中島みゆきさんと組んで放った代表的なヒット曲のひとつ「かもめはかもめ」。
オリジナルでは、坂本冬美さんの「また君に恋してる」などのアレンジでも知られる若草恵さんの繊細かつダイナミックなアレンジが大変印象的でしたが、ここではまた異なったアプローチのアレンジとなっています。
「引き」に徹した“あやや”のヴォーカルも、胸を打ちます。
続いては、このところの『SINGER』シリーズのメインとなっている「近年のJ-POPのヒット曲をカバー」というラインのさきがけとも言えそうな、MISIAさんの「逢いたくていま」。
ここでの“あやや”は、全力での勝負を避け、やや抑え気味に表現し、MISIAさんとは異なる味わいをかもし出しています(どこか、キュートですらあります)。
そして、河島英五さんの出世作で、演歌系のアーティストによるカバーも多い「酒と泪と男と女」。
これは比較的ストレートなカバーで、“あやや”も「歌う」から一歩踏み出して「演じる」領域へと踏み込んでみた感じ。
なかなか、ハマっています。
次はなんと、あの「マイ・ウェイ」(日本語。布施明さんが歌っている歌詞で歌唱)。ここで出ました。
「自信のない方、カラオケではご遠慮ください」ナンバー(?)のひとつですが、これまた“あやや”にとっては余裕のようです。
続いては、さだまさしさんの「案山子(かかし)」。
上京したきょうだいを田舎で思いやるお兄さんの歌を、“あやや”は柔らかく包み込むように歌います。
因幡晃さんの代表作「わかって下さい」。
オリジナルではいきなりパイプオルガンが鳴り響いて驚かされたものですが、ここではピアノだけの伴奏で、しっとりと歌う“あやや”です。
と、アルバムの最後になって急にミラーボールが回転し出して、気分はディスコのチークタイム(いや、マジで知らないけど)。
ドラマーであり「失恋レストラン」やトシちゃんの「騎士道」などを作った、つのだ☆ひろさんの、シンガーとしてのヒット曲「メリー・ジェーン」です。
歌詞が英語なのですが、オリジナル・シンガーも日本の方だからか、“あやや”のカタカナ英語も、ここでは堂々としたものです。
さて、次は『SINGER』シリーズの中でも人気の高い1曲=中島みゆきさんの「糸」が収められた『SINGER3』です。
お楽しみに! (つづく)