古今東西・どんなジャンルの歌も丸吞みにしてしまう“歌怪獣あやや”=島津亜矢さんのカバーアルバム『SINGER』シリーズをご紹介して行くこのシリーズも、2015年リリースの第3作『SINGER3』に入りました。
今回も「洋楽を英語のままカバー」からスタート。
曲はホイットニー・ヒューストンの出世作「Saving All My Love For You(すべてをあなたに)」。不倫の歌なんですが、ラブ・バラードの傑作で、難曲でもあります。
オリジナルで鳴っていた、バブル期にプロの間で人気のあったキーボード、ヤマハのDX-7の繊細な音色はここでは聴かれませんが、“あやや”の歌唱は(一部の単語がちょっと怪しいのを別にすると)、ほぼ完璧です。
続いては、もんた&ブラザーズの超有名曲「ダンシング・オールナイト」。
この曲がヒットしていた1980年ごろ、どういうわけか五木ひろしさん、故・八代亜紀さん、森進一さん…といった、いわゆる演歌系にカテゴライズされる歌い手のみなさんが、こぞってこの「ダンシング・オールナイト」をカバーしたがる……という現象があり、テレビ番組などで頻繫(ひんぱん)に披露されていたものでしたが、これが不思議と、それぞれのクセの強い歌唱法にマッチしていたものでしたが、同じ演歌歌手とはいえ、“あやや”の「ダンシング・オールナイト」は、そういったバージョンとは決定的になにかが違うようです。
「ハマっている」という、その一点においては共通しているのですが。
なんというか……、ただカッコいい。
わたくしには、そう感じられます(もんたよしのりさん、安らかに)。
そして、「糸」。
あの悪名高いテレビドラマ『聖者の行進』のために書きおろされた2曲のうちの1曲だったなんて、きっともうほとんどの人が忘れていらっしゃることでしょうが、そんな、結果的に、長い時間をかけてスタンダード・ナンバーになって行った、中島みゆきさんの代表作のひとつで、“あやや”は紅白の舞台でも披露しています(Bank Bandなどのカバーでも知られていますね)。
これはもちろん、文句なしの名唱。
余談になりますが、この「糸」は結婚式の定番だったりもするせいか、“あやや”が在籍するテイチクからリリースされている『祝い唄大全集』、といったようなコンピレーションアルバムにも、“あやや”の「糸」が、大泉逸郎さんの「孫」などといっしょに収録されていたりします。
さて、ここからの流れは、まさに《神》。
続いては、徳永英明さんのデビュー曲であり、今も大切に歌われ続けている「レイニーブルー」。
これがまた、この『SINGER』シリーズ屈指の仕上がりなのです。
そしてあの映画『ゴースト~ニューヨークの幻』の、と、ご紹介するまでもない超スタンダード・ナンバーにして超難曲「Unchained Melody(アンチェインド・メロディ)」。
映画でも使用されたライチャス・ブラザーズのバージョンがやはりスタンダード中のスタンダードだと思いますが(ライチャス・ブラザーズはビル・メドレーとボビー・ハットフィールドのふたりによる、R&B色の強い白人男性デュオでしたが、この曲ではボビーがソロで熱唱しています)、とにかく音域が広く、全体的にしっかり歌えればもうバッチリ! といえる1曲です。
これまで、わたくしが聴いてきたカバーでは、カントリー・ポップ系の女性シンガー、リアン・ライムスが12才くらいの頃にレコーディングしたという(!)バージョンが圧倒的に素晴らしかったのですが、“あやや”の「アンチェインド・メロディ」も、これまた素晴らしい。素晴らしすぎる!
わたくし、自分のお葬式というものがもしあるとしたなら、ぜひ、この“あやや”の「アンチェインド・メロディ」を流していただきたい。
それくらい、惚れ込んでおります。
続いては、「ロンリー・チャップリン」でおなじみ、鈴木聖美(きよみ)さんの「TAXI」。
なんというか、大人の恋の歌で、“あやや”もしみじみと歌い込んでおりますが、イントロから入ってはじめの一音、どこらへんから入るか……で、ちょっとビックリします(笑)。
次は松田聖子さん初のミリオンセラー(オリコン調べ)となった「あなたに逢いたくて~Missing You~」。
これがまたキュートで、安定していて、すごくいいんです。
と、ボキャブラリーがどんどん少なくなって行く中、この『SINGER3』のご紹介もだいたい真ん中、「A面」の終わりあたりまで来ました。
この続きはまた次回、ということで、よろしくどうぞー。 (つづく)