2015年にリリースされた『SINGER3』のご紹介も、前半=「A面」のおしまいまで来ました(この「A面」「B面」は、筆者が便宜上分けているものです)。
というわけで、「B面」に突入いたします。
まずはKiroroの「未来へ」。
メジャー・デビュー・ヒットの「長い間」よりも、ひょっとすると今ではこちらの方がよく知られているかもしれませんね。
ピアノだけをバックに、オリジナル楽曲でも肉親の情愛をテーマにしたものを多く歌っている“あやや”らしく、心のこもった表現が聴かれます。
続く、かぐや姫の「妹」でもそれは同様で、発表されて半世紀が経とうとしているこの楽曲を、“あやや”が心をこめて歌うことにより、とても新鮮な気持ちで聴くことができます
(余談ですが、オリジナルがヒットしていた当時、ラジオなどでこの「妹」を聴きながら、2番の「妹よ お前は 器量が悪いのだから」という部分から「南こうせつの妹だったら、相当器量が悪いに違いない。気の毒だなぁ…」と思った人が、いたとかいなかったとか……)。
《四畳半な昭和の青春》は続いて、今度はジュリー=沢田研二さんの「時の過ぎゆくままに」。阿久悠さんの書いた歌詞に、なんと売れっ子作曲家4人それぞれに曲をつけてもらうという、非常にぜいたくなコンペを経て出来上がった名曲であり大ヒット曲(作曲は「勝手にしやがれ」や『名探偵コナン』の音楽でも知られる大野克夫さんです)。
ジュリー自身も、とても大切にしている1曲です。
こういった、ちょっとやさぐれた感じの“あやや”も、いいものです。
さて、次は日本が誇るソングライター・チーム、“Sukiyaki”こと「上を向いて歩こう」を生み出した永六輔=中村八大の《六八コンビ》の名曲で、同名のテレビ番組のテーマ曲としても知られる「遠くへ行きたい」。
これを“あやや”が歌うと、不思議なことに山口百恵さんの「いい日 旅立ち」っぽい雰囲気に仕上がるんですねー。
それでいて、あっさり風味。
とても魅力的です。
続いては、玉置浩二さんというひとつの才能を世に知らしめた、安全地帯の出世作「ワインレッドの心」。
井上陽水さんのバックバンドをされていた縁から、陽水さんが作詞、玉置さんが作曲、というコンビの手によって出来あがった作品でした。
「しっとり」でありつつ「さっぱり」でもあるという、どちらかというとおいしいロゼか白ワインのような歌声を、ここでの“あやや”は聴かせてくれます。
そして、《六八コンビ》ふたたび。
マイクを置いて長い年月が経つにもかかわらず、カムバックを求める声がやむことのない、唯一無二のディーヴァ・ちあきなおみさんの、クラシカルかつシックなカバーで一躍、有名になった「黄昏のビギン」。
ここでの“あやや”は、オリジナル・シンガーの“おミズ”こと水原弘さんのバージョンに近い、軽快かつ優雅なアレンジにのって、どこかなまめかしい……そんな歌声を聴かせます。
ちなみにちあきさんは、およそ5年の間ですが、“あやや”と同じテイチクに在籍しており、ちあきさんの「黄昏のビギン」は、その時期に生まれた録音でした。
さあ、アルバム『SINGER3』も、いよいよ終盤です。
ここで“あやや”は、ひとつの勝負に出ます。
なんとあの、ドスのきいた低音とハイトーンのツインヴォーカルで一世を風靡した、クリスタルキングの「大都会」。
これを、たったひとりで歌うのです。
それで、いったい、どうなったかって?
それはぜひ、あなたご自身の耳で、確かめてみてください。
『SINGER3』のラスト・ナンバーは、スタジオジブリ作品『おもひでぽろぽろ』の主題歌として、都はるみさんが「愛は花、君はその種子(たね)」というタイトルで日本語カバーされていた(由紀さおりさんも、アルバムの中でカバーされています)、「The Rose」。
もともとは、1970年前後を舞台に、ジャニス・ジョプリンをモデルにしたともされる、ある女性ロック・シンガーの短くも激しく生きた人生を描いた同名映画の主題歌として、主演のベット・ミドラーが歌い、ヒットさせたものでした。
これを英語のまま、“あやや”は歌い上げるのです。
いや、堂々としています。
単語がどうとか、多少のことは気にならないような、風格すら漂っています。
この「The Rose」で、『SINGER3』は静かに、いや、おごそかに、幕を閉じるのです。
(つづく)