マキタスポーツさんが命名した《歌怪獣》の異名が業界内外にとどろく中、2023年、“あやや”こと島津亜矢さんはシリーズ第8弾『SINGER8』をリリースしました。
リリース前、タワーレコードオンラインなど一部の通販サイトで公表されていた「収録予定曲」から、いくつかの楽曲が入れ替わり(HYの「366日」などもあったと記憶しています…)、曲数も15ないし16曲の予定だったのが、(CDでは)全14曲。
それでもトータルでおよそ70分なので、曲数に関しては、収録可能時間の問題(音楽CDの収録可能時間のリミットは、おおむね79分ほど)があったのかもしれませんね。
さて、それでは早速、収録曲を順にみて行きましょう。
今作もまずは「英語の歌を、英語のままで」シリーズ(?)からスタートです。
ミュージカルから映画へと展開し、大きな成功を収めた『ドリームガールズ』。
この映画版で、主演のビヨンセが歌うために用意された「LISTEN」。
ミュージカルの頃からのハイライト・ナンバーで、ジェニファー・ハドソンの熱唱(および渡辺直美さんによる誇張しすぎた振りマネ!)によって有名になった「And I Am Telling You I’m Not Going」と共に、映画『ドリームガールズ』を象徴する名曲と言えるでしょう。
興味深いのは、それぞれシチュエーションは全く異なるのですが、どちらもひとりの男性に向かって「本当の私自身を、もっとちゃんと見てほしい」と強く主張する歌だ、ということです。
それはそうと、“あやや”と「LISTEN」のマッチングはバッチリでした。
(歌う上での)英語の発音も、どんどん自分のものにしている感じがします。
続いては、YOASOBIの出世作「夜に駆ける」。
星野舞夜さんの小説『タナトスの誘惑』『夜に溶ける』を「原作」として作られるという、異色のプロセスを経て生まれた楽曲です。
ここでの“あやや”はソロで軽快に歌唱していますが、TBSの『音楽の日』では、トップクラスの男性声楽家たちとのコラボレーションが話題となりました。
YOASOBI・そして『音楽の日』、といえば、2024年の“あやや”は、TVアニメ『推しの子』のオープニングテーマにして超難曲である「アイドル」をカバーしていたのも印象的でした。
さて、次に登場するのはMISIAの………おっ、なんと「Everything」!
ここまでの『SINGER』シリーズで「アイノカタチ」「逢いたくていま」など、いくつもカバーしてきた中、ここに来て“真打ち登場”というか、超有名曲の登場です。
ドラマ『やまとなでしこ』の主題歌として大ヒットしましたが、今ではもはやJ-POPの、いや、日本のスタンダード・ナンバーのひとつ。
“あやや”もまさに満を持したといった感じで、バッチリ決めてくれております。
ドスのきいた低音と、キュートな中高音のバランスもバッチリ!
と、ここでCDではOfficial髭男dism=ヒゲダンの「I LOVE…」が登場するのですが、サブスクでお聴きの場合、そこに愛……否、「I LOVE…」は存在しないかと思われます。
レコチョクなどのダウンロード販売サイトでも「I LOVE…」だけは購入できないようです(2024年4月現在)。
一般的に「配信リリースのみ」ということはよくありますが、この、快活に歌われ、特にどこかに問題があるとも思えない“あやや”の「I LOVE…」は、何らかの事情によって「CDのみ。サブスク、DL販売なし」ということになっているようです。
いずれにしてもこれは、CDを購入(もしくは、レンタル)した人だけが楽しめる、貴重な1曲となりました。
ちなみにヒゲダンの「I LOVE…」は、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』の主題歌でした。
続いては、映画『ボディガード』から、クライマックス・シーンで歌われた、ホイットニー・ヒューストンの「I HAVE NOTHING」。
これは「I WILL ALWAYS LOVE YOU」に負けず劣らず、なかなかの難曲なのですが、“歌怪獣・あやや”の手にかかればほんのひとひねり、といったところでしょうか。
そして、中島みゆきさんの「ファイト!」(厳密には、基本的なフォントでは再現できないのですが、この曲名で使われている「!」の棒の部分、内部が空洞になっています)。
1983年発表のアルバム『予感』に初収録された後、1994年に「空と君のあいだに」(ドラマ『家なき子』第1シリーズ主題歌)と両A面でシングルカットされミリオンセラー、そして有名曲となりました。
これは、ここまで“あやや”のカバーソングの代表格である「糸」をはじめ、数々のみゆきナンバーを歌ってきた“あやや”が、満を持して挑んだ……そんな印象があります。
部分的にショッキングな描写のある歌詞は、当時みゆきさんが担当されていたラジオ番組に寄せられた手紙をもとにしているのではないか、という憶測もあり、いまだに(自分を含めて)そう信じている方もいらっしゃるかと思うのですが、それに関しては早い時期にみゆきさんご自身が否定しておられるようです。
それにしても生々しい、あまりにもリアルで時に残酷な描写の数々ですが、みゆきさんも“あやや”も淡々と、まるで日記を朗読しているかのように歌い進めて行きます。
きっとそういった前段があってこその、サビの部分の「ファイト!」の、すべてを込めたかのような力強さ、なのでしょうね。(つづく)