IRON MAIDENはイギリスのヘヴィメタルバンドである。1975年にベース担当のスティーヴ・ハリスを中心にして結成された。1980年4月、初代ヴォーカリストにポール・ディアノを迎え、1stアルバム『IRON MAIDEN』をリリースする。IRON MAIDENの歴史を紐解くと、総勢3人のヴォーカリストが活躍してきたのだが、この初代のポール・ディアノは荒々しい声の持ち主であった。ポール・ディアノの荒々しい声は、初期のIRON MAIDENのパンキッシュな作風とよく合っていた。ポールのヴォーカルはあまりメロディアスなものではなかったが、パワフルで荒々しいパンキッシュな声は、初期のIRON MAIDENの音楽性を形作った大きな要素といえるだろう。1981年に2ndアルバム『KILLERS』を発表した。ポール・ディアノはこのアルバムを最後に脱退したが、この2枚のアルバムは現在でも初期の名作として広く認知されている。後任のヴォーカリストとしてブルース・ディッキンソンが加入して、1983年に3rdアルバム『THE NUMBER OF THE BEAST』がリリースされる。その後もブルースをヴォーカルとして起用し続け、数々の名作を世に送り出していった。ブルース・ディッキンソンの声は、前任のポール・ディアノよりも遥かに広い音域を出せる声で、メロディを歌い上げることも非常に得意であった。ブルース期のIRON MAIDENは様式美メタル路線に舵を切り、ブルースの巧い歌声がそれを支えたのであった。ブルースをヴォーカルに起用したことで、IRON MAIDENは代名詞となる独自の様式美メタルを構築することに成功した。ブルース期のIRON MAIDENはバンドとしての黄金期を迎えたといえるだろう。しかし、1993年に音楽的衝突によりブルースが脱退する。後任のヴォーカリストとしてブレイズ・ベイリーが加入する。ブレイズをヴォーカルとして起用して、1995年に10thアルバム『THE X FACTOR』がリリースされたが、このアルバムは非常に不評であった。ブレイズの声は、中低音域を中心とした男らしく力強い声で、高い声は出なかった。このブレイズの声を各メタル専門誌などがこぞって批判し、ブレイズを降板させろという圧力が高まった。それでもバンドは1998年に11thアルバム『VIRTUAL Ⅺ』をリリースするが、このアルバムもブレイズのヴォーカルに不満を持つ人々によって不評であった。ブレイズの声は前任のブルースに比べると、音域が狭かった。そのため、ブレイズは各方面から強い批判を受けることになり、ヘヴィメタルが世界的に沈滞していた時代的な事情もあり、バンドの活動はスケールダウンしていった。その後、ブレイズが脱退し、ソロ活動に行き詰まりを見せていたブルースが再びヴォーカルに復帰する。バンドは新しいリユニオン期を迎え、2000年に12thアルバム『BRAVE NEW WORLD』をリリースした。その後もブルースをヴォーカルとして起用し続け、プログレッシブな魅力をもった長尺曲に挑戦するなど、数々のアルバムを発表していき、現在に至っている。
IRON MAIDENのヴォーカリスト別の名作3選
①ポール・ディアノ期 『KILLERS』(1981年)
2ndアルバムの『KILLERS』は、ポール期のパンキッシュで荒々しい魅力を楽しめる名盤である。「WRATHCHILD」「KILLERS」などの楽曲では、ポールの荒々しく力強い声が前面に出て攻撃的な音楽性が展開されている。1stアルバムも名作であったが、よりパンキッシュな音楽を求めているのであれば、このアルバムが最適である。
②ブルース・ディッキンソン期『SOMEWHERE IN TIME』(1986年)
このアルバムでIRON MAIDENの様式美メタルが一つの大きな完成を達成したといえるだろう。「CAUGHT SOMEWHERE IN TIME」「WASTED YEARS]「STRANGER IN A STRANGE LAND」などの様式美メタルの名曲が収録されている。ブルースの広い音域の伸びやかな声は、この様式美路線にマッチし、80年代メタルを代表する名盤がここに生まれた。
③ブレイズ・ベイリー期『VIRTUAL Ⅺ』(1998年)
ブレイズの中低音域の声は各方面から強い批判を受けたが、筆者は個人的にはブレイズのヴォーカルが下手だと思ったことはない。ブレイズはメロディーを歌い上げることも得意で、特にアップテンポの曲ではその声の力強い勢いがよく生きていた。「FUTUREAL」「THE CLANSMAN」などのIRON MAIDEN流の様式美メタルの曲が、ブレイズのヴォーカルによって新たな彩を添えられている。
以上、簡単にではあるが、IRON MAIDENの3人のヴォーカリストの活躍について紐解いてみた。この3人のヴォーカリストの中で一番歌が上手いのは、ブルース・ディッキンソンであることは間違いない。ブルースを起用したことで、バンドは飛躍的な進化を遂げた。しかし、それでも初代のポール・ディアノや3代目のブレイズ・ベイリーのヴォーカルの魅力も捨てがたいものがある。結局、ヘヴィメタルのヴォーカルというのは、単純に歌が上手ければ絶対に良いとも言い切れないところがあると思う。歌があまり上手くなくても、その人の声に固有な魅力というのはあると思う。ポール・ディアノの声は、メロディアスではなかったが、そこには独特なパンキッシュで荒々しい魅力があった。ブレイズ・ベイリーの中低音域を中心とした男らしく力強い声にも、パワフルな魅力があったといえるだろう。IRON MAIDENの3人のヴォーカリストの変遷は、ヘヴィメタルにおけるヴォーカルの多様な魅力を語っているのである。
IRON MAIDENの3人のヴォーカリストについて
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