さて。次に検証してみたいのは、麻生よう子さんの「逃避行」。作詞は千家和也さんです。
いきなり余談になりますが、麻生さん、もともとは“演歌ひとすじ”の作曲家・猪俣公章さんのお弟子さんだったのですが(つまり坂本冬美さんと同門生)、これは師匠のセンスというか采配なのでしょうか、「この子はポップスがいいだろう」ということになったようで、このデビュー曲「逃避行」の作曲も猪俣さんではなく、のちにピンク・レディーで大当たりをかっさらう都倉俊一さんが、しっとりとした、メロウな楽曲を提供しています。
で、「逃避行」の歌詞なのですが、かなり具体的に物語が語られています。
いきなりネタをばらすのも何ですが、「逃避行」とは、ここでは「そうなるはずだった状況」として歌われます。
恋人から「知らない街へふたりで行って 一からやり直」そうと告げられた女性。
「午前五時に駅で待て」と言われ(ちなみにシングル盤のジャケットの背景には、JR原宿駅の旧駅舎が写り込んでいます)、その通りに駅で恋人を待つ女性。
しかし、いくら待っても彼は現われず、彼女は「また 空いた汽車を 空いた汽車を 見送」るのでした。
彼女の脳内には「昨日の酒に 酔いつぶれている」、はたまた「女のひとに 引き止められてる」と、さまざまな憶測がめぐって行きます。
いずれにしても、言い出しっぺのくせに、その気がまったくなさそうな男性、いや、男の、ダメな感じを匂わせるものばかり。
結局、自分の中であきらめをつけた彼女はひとり、切符を買い、汽車に乗ってゆくわけです。
行く先はどこでしょうか。どうやら、奥村チヨさんの「終着駅」とは違う場所のようですが。
どこかの街で、ひとりでなんとか、彼女はやって行くのでしょう。
おそらく、彼女のことですから。(つづく)