2020年の暮れ、作曲家・筒美京平さんが亡くなられ、それはやはり、日本の流行音楽の世界にとっても、ファンである私たちにとっても大きな損失であり、いまだにまだちょっと信じられない、そんな気分のまま日々を過ごしているのですが、京平さんには、全力投球で取り組んだアーティストが何組かいます。
まず少女雑誌のモデルとして世に出て、その後アイドル歌手としてデビューし、そこからある時期まで京平さんの楽曲を歌い続けていた、麻丘めぐみさんもまた、その中のひとり、ということになるでしょう。
めぐみさんというと、どうしても「わたしの彼は左きき」、ということになりがちで、確かにこの曲は彼女最大のヒット曲で、何のくもりもない明るい曲調は、それを納得させてくれるものがありますが、それ以外の楽曲も、京平さんに関してはハズレなしの傑作ぞろいとなっておりまして、デビュー曲「芽ばえ」の流麗なストリングス(高田弘さんのアレンジ・ワークが光ります)、千家和也さんによる、アイドルのデビュー曲としてはいささかキツい?状況が歌い込まれている歌詞、そして京平さんのシンプルでかわいらしいメロディーと、実はこのあたりでアイドルとしての麻丘めぐみさんの世界は、すでに完成の域に入っていたのではないか?とすら思わせるのですが、この次がスゴい。
その「この次」は、後ほど触れることにしまして、その後京平さんは、アレンジもご自分で担当されるようになり、ベースギターやホーンセクションが醸し出すドライブ感が爽快な「女の子なんだもん」、“ハイジ”よりちょっと早かった「アルプスの少女」、「女の子なんだもん」のサウンドをさらにドライブさせたような感じの「森を駈ける恋人たち」、さらには「左きき」の次、イミシンな歌詞に“これぞ京平サウンド”とでも呼びたい、おもいッきりグルーブしているサウンドが心地よい「ときめき」、といった傑作を連打して行ったわけです。
で、問題の「この次」=「悲しみよこんにちは」ですが、コレがもう、本当に素晴らしい。
「芽ばえ」の次のシングル、ということで、アレンジは同じく高田弘さんが担当されていますが(京平さんの場合、他の作曲家の方々とはちょっと違って、イントロであったりその他の細かい部分もわりと決めておられたようなのですが、その分アレンジャーとしては、そのセンスが問われることになります)、流麗なストリングスはそのままに、イントロから強調されたベースギターの音色、そしてアコースティック・ギターの響きが、センチメンタルな感じを盛り上げ、思春期の少女の、ちょっと難解な、それでもなんとなくわかる気がする、リリシズムあふれる歌詞、そして京平さんによる、地味ながら美しいメロディー、さらにはサビの部分の、もう涙が出ちゃうようなコード進行!!!
このお仕事を『ネ申』と呼ばずして、なんと呼んだらいいのか。
2020年の12月30日、TBSラジオでの追悼番組で、クレイジーケンバンドの横山剣さんがオススメされていたのを耳にしてショックを受けて以来、私はこの「悲しみよこんにちは」を何度、聴いたことでしょうか。
麻丘めぐみさんの楽曲は、サブスクリプションでも解禁されておりますし、ベストCDも、ご本人選曲による豪華な内容の『プレミアムベスト』をはじめ、いくつか発売されておりますので、ぜひ、あなたの耳で、その素晴らしさをお確かめいただきたいと思う次第です。
(了)