お金では買えない信頼

 本屋に行って本が一巻から六巻まで発売されている場合、父は一回の来店で全部買ってくれる人だった。一方母は一冊一冊来店するたびに一冊ずつ買ってくれるタイプだった。一度に全部与えるのは良くない、一冊の重みを嚙み締めるからこそ大切さを実感するのだ、というのが母の持論だ。
 父は会社の人が家に来た時もいつもお金を出して信頼を得ようとする人間だった。バスではなくタクシーで出かける、家で母の作った朝食を食べず喫茶店で済ませる。お金の使い方がだらしなく浪費をする人間だった事は幼い頃からの記憶としてしっかり残っている。
 スポーツを観るのも嫌いで、母がキャッチボールをしてくれたのを私は有難く感じていた。初めてプロ野球観戦に連れて行ってくれたのも母。少年野球の車での送り迎えをしてくれたのも母。母は父とは仲が悪かったが、私と妹を大学まで出すため決して離婚はしなかった。
 父親はものすごいキレやすく母が「傘を持っていったら?」と言っただけで機嫌を損ねてビニール傘をグチャグチャに折り曲げていた。私が「うそ」と言っただけで「俺が嘘をつくと思っているのか。」と殴られた。それでも母は父が介護が必要になった時、父が亡くなるまで献身的な介護をした。父は勉強はできるが公務員ながら、仕事ができない金使いの荒い人間だった。
 私は大金を出せば本が何冊も買えるより、一冊ずつ買ってくれるのが倫理的にも道徳的にも正しかったと思っている。母は町内のソフトボール大会にも出場し、大量のあざをつくりながらも必死でファーストを守った。行動で見せる子供への教育とお金を与えて子供に喜んでもらえると思っていた父。人間の情や物の大切さ、そして確かな信頼を得るのはどっちなのだろうか?答えは言うまでもないと思う。
 キャッチボールをしていたボールを少年が取り損ねて、私の足元に転がってきた。「投げるよー」大きな声を出して返球した白球は突き抜けるような青空に高く高くどこまでも飛んでいくような気がした。

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スターゲート

プロ野球観戦と、カラオケを歌うのが大好きな私は、本を読むのも趣味で主に新書コーナーに足繫く目を通しに行きます。今、一生懸命スマホやパソコンを勉強しています。表現力を磨いてどんどん発信していこうと考えています。【努力に勝る天才は無し】この言葉をモットーに精進していきます。皆さんどうぞ温かい目で見守って下さると幸いです。宜しくお願いします。

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