「宇宙戦艦ヤマト」「銀河鉄道999」など多くの作品を残し、70〜80年代初めにかけて「松本零士ブーム」と呼ばれる一つの時代を築いた松本零士先生。
そんな松本先生が2月13日に星の海へ旅立たれました。85歳でした。心よりご冥福をお祈りいたします。松本先生の作品は後の漫画・アニメに多大な影響を与えただけでなく、海外でも高い評価を受けています。
その功績を認められ、2001年に紫綬褒章、2010年には旭日小綬章を受章されました。また、フランスの芸術文化勲章も授与されています。
私自身も、小学生の頃に松本先生の作品のとりこになった一人です。壮大でロマンあふれる設定やストーリー、独創的で魅力あふれるキャラクター(特にメーテルやハーロック、エメラルダスも!)にすっかり魅せられてしまいました。
それだけではなく、作品を通じて生と死についても深く考えさせられました。松本零士先生の作品との出会いは、その後の自分の人生に大きな影響をあたえてくれたと強く感じています。
今回は、そんな松本零士先生への追悼の意味を込めて、私が特に印象的だった
- 「宇宙戦艦ヤマト」
- 「銀河鉄道999」
- 「音速雷撃隊」
の3作品を振り返っていこうと思います。
「宇宙戦艦ヤマト」
私が松本先生の作品に初めてふれたのが「宇宙戦艦ヤマト」です。松本先生は監督を務められました。
「宇宙戦艦ヤマト」は、宇宙戦艦として海底からよみがえったヤマトが、滅亡寸前の地球を救うために沖田艦長や若者たちを乗せてイスカンダル星へと旅立つ、というお話です。
私はリアルタイムで見たわけではありませんが、小学生の頃に父親が買ってきたビデオで鑑賞しました。当時のビデオは最新の家電。私は物珍しさから、さまざまなアニメを録画してもらいましたが、一番ハマったのが「ヤマト」でした。それこそテープがすり切れるくらい、繰り返し何度も何度も見たことを思い出します。あまりに繰り返し見たので親から呆れられました。近所の友達とヤマトごっこをして遊んだ記憶もありますね。
何が、そんなに私を魅了したのか?
音楽、ストーリー、SF設定の緻密さ…。いろいろあるのですが、やはり一番大きいのは「ヤマトのかっこよさ」なのではないかと思うのです。松本先生のデザインしたヤマトは戦艦大和をベースとしながらも宇宙船としてめちゃくちゃかっこよかった。
そして線が多く複雑なモデルといえるヤマトが、画面上で動いて敵と戦う!その点が、当時としては衝撃的ともいえることでした。制作陣はヤマトをあえてアニメ風に簡略化せず、コマを落としてゆっくり動かすことで重量感を出すことに成功したのです。
個人的に一番好きなシーンはヤマトがはじめて飛び立つ場面ですね。敵の大型ミサイルが迫るという緊張感の中、四苦八苦しながらようやくエンジンの起動に成功。干上がった地表を割りながらグオーッとヤマトが浮上してミサイルを迎撃するシーンは、もはや全アニメの中でも屈指の名場面。このシーンではエンジンの起動に至るシークエンスもていねいに描かれており、SFファンから高い評価を受けたと聞いています。
また、ガミラス星の硫酸の海に潜り、残り数分で船体が溶けてしまうという状況からの、波動砲で火山鉱脈を打ち抜いて一発逆転するシーンも秀逸です。その後、宮川泰作曲のヤマトのテーマとともに浮上してくるヤマト。何度見返しても、文句なしにかっこいい!思わず胸が熱くなります。音楽と映像が見事にかみ合った名場面といえるでしょう。今見てもその輝きは色あせることがありません。
「銀河鉄道999」
「銀河鉄道999」は、鉄郎という少年が、永遠に生きられる機械の体を求めて謎の美女メーテルとともに宇宙を列車で旅していくSF冒険活劇。マンガ版、TVアニメ版、劇場アニメ版があり、それぞれ微妙に展開や結末が違います。
私が一番好きなのはゴダイゴの主題歌で有名な劇場版。かなり長い原作が2時間という枠の中できれいにまとまっていると感じられます。原作と比べると、旅を通じて少年が成長していく冒険活劇としての色合いが強くなっていますね。
松本作品の顔ともいうべき、金髪の美女メーテルが登場する作品でもあります。私ももちろんメーテルの美しさやミステリアスな部分に惹かれました。印象的なラストシーンは涙なくしては見られません。今でも語り継がれる名場面です。
「劇場版 銀河鉄道999」はSFと幻想的な宇宙の描写が入り混じった名作といえますね。メーテルやハーロック、エメラルダスなど、松本先生が大事にしているキャラクターたちが一堂に会する豪華な作品にもなっています。
個人的には「男なら、負けると分かっていても戦わなければならない時がある。」というハーロックの台詞が大好き。もはや時代錯誤なのかもしれませんが、同じ男性として憧れてしまいます。
作品のテーマが「人はどう生きるべきか?」という哲学的なものになっていることもあり、大人になってから見直してもおもしろい作品と言えそうです。機械の体になれば永遠の命が手に入るものの「限りある命だからこそ、人は精一杯生きていこうとする」というメッセージも込められているように感じられた名作でした。
「音速雷撃隊」(戦場まんがシリーズ)
戦場まんがシリーズは第二次大戦を舞台に、男たちの戦いを描いた短編作品集です。のちにまとめて「ザ・コクピット」という名称に改められました。
緻密に描かれた当時の兵器の描写や、何のために戦うのか悩み葛藤しながらも戦い抜いて、時には死んでいく兵士たちを描いた人間ドラマは今でも高く評価されています。
「わが青春のアルカディア」「スタンレーの魔女」「鉄の竜騎兵」などが有名ですが、今回はOVAとしてアニメ化もされた「音速雷撃隊」をご紹介したいと思います。
「音速雷撃隊」は太平洋戦争末期に登場した、特攻用ロケット機「桜花」に焦点を当てた作品です。
「桜花」は母機に吊り下げられて敵艦隊の近くまで運搬され、その後切り離されてロケットに点火。最後は搭載した爆薬もろとも敵船に体当たり攻撃をするという、「人間爆弾」でした。もちろん搭乗員は帰ってくることができません。まさに死の桜そのものだったのです。
この作品では戦争が「多くの若者の夢と未来を奪ったもの」として描かれていました。それは、桜花を運搬する機長のセリフに象徴されています。
「この戦争で死んだ世界中の若い奴らが、あと30年生きていたら、色んなことをやったんだろうなあ…」
松本先生の戦争に対する考え方の一端を見ることができるのではないでしょうか。
主人公自身も、いつかロケットを月に打ち上げたいという夢を持っていましたが、作品の最後に桜花で敵空母に突入、若い命を散らしました。直後、広島へ原爆が投下されたという一報が入り、「敵も味方もみんな狂っている」という言葉を残して、空母の艦長も戦死しています。戦争は、狂気の行為に他ならないというメッセージを強く感じさせますね。
ラストシーンでは、戦争終結から人類が月へ行くまでの年表が提示されますが、それがよりいっそう悲壮感ややるせなさを際立たせています。
おわりに 松本先生へ
「人は死ぬために生まれてくるのではない。生きるために生まれてくるのだ」
生前の松本先生はこのような言葉を残しています。大宇宙を舞台にしたロマンあふれる作品だけでなく、戦場を舞台に、戦争とはなにか、生きるとはどういうことか、というテーマでも多くの作品を残してくださいました。
改めて松本零士先生のご冥福をお祈りするとともに、先生の作品が後世まで語り継がれ残っていくことを切に願っております。
私自身も、先生の作品を通じてたくさんのことを考えさせられ、教えていただいた気がしています。今まで本当にお疲れさまでした。そしてありがとうございました。
先生がいなければ、今の自分はいなかったと確信しています。先生は自分にとって人生の師のような存在でした。先生からいただいたものをしっかりと抱いて、私は前へ進みたいと思います。
先生の魂はいま、大好きな宇宙を飛び回っていることでしょう。時間というものはリングのようにつながっていると考えていた松本先生。遠く時の輪の接するところで、また巡りあえる時を楽しみにしています。
松本零士先生、本当にありがとうございました。