生物好きなみなさん、こんにちは!
みなさんはザトウクジラというクジラをご存じですか?
ザトウクジラは、海の中で美しい歌を歌うことで有名なクジラです。特に繁殖期になると、オスが長い時間繰り返し歌を歌うことが知られており、この歌は、人間の音楽にも匹敵するほどバラエティーに富んでいます。またこの声は、3,000km離れた地点まで届くという研究結果もあります。
では、なぜザトウクジラは歌うのでしょうか?そして、その歌はどのようにして歌われているのでしょうか?今回は、ザトウクジラの歌と彼らの生態について、最新の研究をもとにご紹介します。
ザトウクジラのバラエティーに富んだ生態
ザトウクジラは、ナガスクジラ科ザトウクジラ属に分類される鯨類です。
平均的な全長はオス13.4メートル、メス13.7メートルで、最大全長は18メートルに達します。胸びれは非常に大型で、全長の3分の1に達することも。属名Megapteraは古代ギリシャ語で「巨大な翼」という意味。
全身が黒い個体や、腹面が白い個体もいるなど個体ごとのばらつきが大きいのが特徴で、上あごの背面と下あごの側面に白いコブ状の隆起があり、隆起の先端部には感覚毛が生えています。
ザトウクジラは北半球と南半球に広く分布し、夏は極地近くで採食し、冬は温暖な海域で繁殖・出産・子育てをする回遊生活を送ります。主食はオキアミ(エビによく似たプランクトン)類や小魚類など。気泡を用いて獲物を捕食することもあります。
また、ザトウクジラは
- 水面に向かって跳躍する「ブリーチング」
- 胸びれで水面をたたく「ペックスラップ」
- 尾びれで水面をたたく「テールスラップ」
などさまざまな行動をします。
これらの行動の目的は寄生虫を落とすため、あるいはコミュニケーションのためなどさまざまな説がありますが、確かなことはわかっていません。
ザトウクジラは特徴的な歌を歌う
ザトウクジラは反復的でパターンを持った音を発します。
実際のザトウクジラの鳴き声はこちらの外部サイトからお聴きいただけます。→https://voicebot.su/ja/sound/satoukushira/
この音は人間の歌唱によく似ていることから「歌」と呼ばれています。歌は1曲数分から30分以上も続き、何曲も繰り返して歌われます。最長でなんと20時間ほど繰り返して歌うことが観測されているとか。
歌は地域によって異なっており、同じ地域のザトウクジラはほぼ同じ歌を歌うことが知られています。しかも歌には流行があり、同じ地域であっても、歌われる歌は毎年少しずつ変化していくことが観察されています。研究によって、この歌は母親から子供へと伝えられることがわかりました。
歌は主にオスが発するとされており、メスを引きつけたり、他のオスと競争したりするための役割があるという考えもあります。歌はオスが歌う「恋の歌」なのかもしれません。少しロマンティックな感じもしますね。
ザトウクジラはどのように歌を歌うか?
では、ザトウクジラはどのように歌を発生させているのでしょうか?
ザトウクジラは、他の鯨類と同様に、鼻腔内にある組織を振動させて音を発します。ザトウクジラは、両側の鼻腔を同時に使って音を発しますが、これはほかのクジラと異なる特徴であり、これによってザトウクジラは高い音から低い音まで幅広い音を出すことができると考えられます。
また、ザトウクジラは音を発する際に呼吸をしないことも特徴的。ザトウクジラは、水中で歌うために、肺から空気を鼻腔に送り込みますが、鼻腔内の組織を振動させて音を発した後、その空気を別の鼻腔に移動させます。このようにして、空気を循環させながら音を発するので、彼らは水中で長時間歌うことができるのです。
こうして海の中で、美しいメロディが奏でられるのですね。
ザトウクジラはなぜ歌を歌うのか?3つの仮説
先ほど、ザトウクジラの歌はオスが発する恋の歌のようなものかもしれないと話しましたが、実はくわしいことはよくわかっていません。
ここでは有力な仮説を3つご紹介します。
仮説1:コミュニケーションの手段
一つ目の仮説は、ザトウクジラの歌がコミュニケーションの手段として機能している可能性です。
クジラは社会的な生き物であり、群れで行動します。歌は個体同士の距離を縮め、コミュニケーションを図る手段として役立つのかもしれません。歌のパターンや変化が、個体間のメッセージや状態を伝える手段として機能している可能性があります。
仮説2:繁殖行動の一環
二つ目の仮説は、ザトウクジラの歌が繁殖行動の一環として歌われている可能性です。
繁殖期になるとオスのザトウクジラはお互いに競争し、メスを引き寄せるためにさまざまな行動をとります。歌がその一環として、メスに対して自分の存在や能力をアピールする手段として使われるのかもしれません。
歌の特徴や繁殖行動との相関関係を調査することで、この仮説の検証が現在でも行われています。
仮説3:地理的なナビゲーション
三つ目の仮説は、ザトウクジラの歌が地理的なナビゲーションに関連している可能性です。
ザトウクジラは広大な海洋を移動する生物であり、歌が彼らにとって道しるべや位置情報の交換手段として機能している可能性があります。特定の海域や目的地への道案内や、周囲のクジラとの位置情報の交換に役立っているのかもしれません。
しかし、この仮説はまだ完全に検証されていないため、さらなる研究や観察が必要です。
おわりに
今回は謎に満ちたザトウクジラの生態、特に彼らの歌についてお話ししましたが、いかがでしたか?
ザトウクジラの歌は、人間にとっても魅力的な音楽ですが、その多くは謎のまま残されています。はたして彼らは何のために歌っているのでしょうか?謎の究明に向けて、今後もザトウクジラの歌に関する研究が進められることを期待しましょう。
また、これをきっかけにクジラやイルカなどの海洋生物の保護や、海洋汚染などにも興味を持っていただけたらうれしいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
では、また次回!
☆参考サイト
クジラの歌ーWikipedia
豆知識:ザトウクジラが歌うソングの謎ー素潜りの学校
去年の歌じゃモテないのか、クジラの歌にも流行があることが判明ーGigazine
クジラの歌にも流行がある?! 他地域と歌を交換する文化をもつザトウクジラーナゾロジー
ザトウクジラは歌を伝え合っている?2、3年で数千キロ先の別集団が「コピー」した例もー朝日新聞デジタル