※注意:この記事では、やや刺激の強い内容を扱っています。苦手な方はご注意ください。
こんにちは。きんいろ旅程です。
みなさんは鳥島という島をご存じですか?
鳥島は東京湾から南へ500㎞、一番近い島からでも100㎞以上離れている絶海の無人島です。伊豆諸島にある直径2.7kmの円形の小さな島で、周囲は断崖絶壁。しかもこの島は火山島で、水なし、草木なし、小動物すらおらず、火口からは有毒ガスが出ているまさに地獄のような島。
しかし、江戸時代に船の遭難などで、なぜかこの島への漂着が相次ぎ、なんと120人以上の男たちがこの島へ入れ代わり立ち代わり流れ着きました。
今回は、そのような漂着者の中から、もっとも長くこの島で生き抜いた遠州(今の静岡県西部)新居の男たちの物語をお届けします。彼らは実に19年もの間、この島で生活していたのです!どうやって男たちはこの不毛な島で生活を送っていたのでしょうか?
「必ず故郷に生きて帰る!」
極限状態でのサバイバル生活、地獄のような環境を生き抜いた人間の知恵と工夫とは?そして受け継がれた想いとは?知られざる感動の秘話を、前後編の2回に分けてお届けします。
12人の鳥島への漂着
時は1719年冬、遠州新居の船乗り12人を乗せた運搬船・鹿丸は今の宮城県石巻から江戸に向かっていました。しかし千葉県九十九里沖まで来たところで大しけに遭遇。帆柱が損傷し操舵不能に陥ります。それから海を漂流すること56日、なんとか鳥島にたどり着いたものの、その時にはすでに水も食料も底をついていました。
海が荒れていたため、全員で小舟で島に上陸し一夜を明かします。しかし翌朝、海岸に出てみたところ、鹿丸も小舟も波によって完全に破壊されていました。
こうして12人は島に取り残されてしまったのです。
船から持ち込めたのは火打石、鍋、釜、斧、桶などわずかなものだけ。「こんなものではどうすることもできない。もう終わりだ…」彼らはもう故郷へ帰ることはできないのだと絶望します。
しかしその時、ある男が声を上げました。
「後悔しても仕方ない。命をつなぐ工夫をし、神仏に祈れば、必ず故郷へ帰れるだろう」
声の主は船頭の左太夫(さだゆう)。それは絶望に負けない、強い声でした。そしてこの瞬間から、左太夫をリーダーとする12人のサバイバル生活が始まったのです。
生き抜くための知恵と工夫
彼らは島で暮らしていくために必要なものを探し始めます。
まず彼らは、ねぐらとなる住処を探しました。幸い、すぐに岩の間に洞窟を2箇所発見。そこを住居とします。
次に食糧。これは島に繁殖のために飛来していたアホウドリを捕獲することにしました。捕獲したアホウドリは、焼いたり海水で煮て食べました。
問題は飲み水、つまり真水の確保です。鳥島は火山島で、川はおろか沼や湖もありません。では、どうしたのでしょうか?はじめのうちは、岩の間にわずかにたまった雨水をすくうしかありませんでした。しかし、12人が飲む分にはとても足りません。
彼らは船から持ち込んだ斧などを使って、島に流れ着く船の残骸から、必要なものを作り出しました。木材をくりぬいてたくさんの桶を作り、それに雨水をため、飲料水に使いました。
また帆から引き抜いた糸と、船釘を加工して作った針を組み合わせて釣竿を作成。これを使って魚を釣ることができました。食生活に少しだけバリエーションが生まれました。
また帆からとった糸をより合わせて、アホウドリの油に浸すと、灯火として使えることも発見。この火は決して絶やさないよう常に気を付けていたと記録に残っています。
12人は結束して、困難な状況に立ち向かっていきました。
仲間の死を乗り越えて
こうして、なんとかこの島で生きていけるかもしれない、という思いが12人に生まれた時、それを打ち砕くような出来事が起こります。なんと仲間の一人が病気で亡くなってしまったのです。
食事が良くなく、身体が腫れて亡くなったとの記録があることから、ビタミン不足による脚気(かっけ)が死因だった可能性があります。
このままではほかの11人の命も危ない状況。しかしこの問題もリーダー左太夫の機転で切り抜けます。
ほかの船の残骸から見つけた赤米から芽が出ているのを知った彼は、赤米を育てて収穫することを考えました。岩の間にわずかにあった土を耕し、食べた魚の頭や骨を肥料として、赤米を育てることに成功。弱々しく細い穂ながら20升(30㎏)ほどの収穫ができたのです。
左太夫はこの赤米を備蓄し、普段は食べず、病人が出た時だけ薬として粥にして飲ませることにしました。栄養のバランスが大切なことを直感的に知っていたのです。
また左太夫は、精神面でも仲間たちを支えました。ホームシックでふさぎこむ者がいれば、魚釣りに誘って気分転換させたり、道具作りや農作業などを共同作業にすることで、目標や生きがいを持たせたのです。
全てが命がけの試行錯誤。彼らは鳥島から与えられた試練を1つ1つ乗り越えていきました。
しかし、現実は彼らの想像よりもはるかに厳しいものでした。時間とともに人のこころが削られていきます。
果たして左太夫たちの運命は?
後編へ続きます!
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