世界を変えるファクター
皆様は、世界を変えたもの、というと、
何を思い浮かべられるでしょうか。
アインシュタインのような偉大な科学者?
それとも、始皇帝のような政治家?
実は、「農作物」というのも、世界を変えるファクターの
かなり重要なものなのです。
かんきつの栽培が広がった結果
柑橘類という作物は、もともとインドあたりが原産のもので、
ヨーロッパの気候風土には合わず、なかなか栽培が普及しませんでした。
南ヨーロッパでさえ、最初のうちは鉢植えして温室で作らないと、
枯れてしまって実をつけなかったのです。
しかし、おいしくて珍しい果樹だった故に、
貴族やその園丁たちが栽培に力と情熱を注ぎ、
その結果、柑橘類は南ヨーロッパではポピュラーなものになりました。
レモンの画像
その結果、大航海時代の船乗りの積み荷の中に、
「ロブ」と呼ばれるライムとレモンの飲み物が積み込まれるようになりました。
この時代には、壊血病というものがビタミンC失調で起こる恐ろしい病気、
という事は知られておりませんでした。
マゼランもこの事実を知らなかった為、
彼が企画した世界一周の旅から帰って来られたのはわずか数名だったそうです。
他の人は壊血病その他で命を落としてしまったのです。
しかし、「ロブ」を積み込むようになって、
壊血病が少なくなる事に一部の船主や船長が気づきはじめました。
その結果、アメリカ大陸まで到達した状況でも、「元気な状態」のヨーロッパ人が
先住民と接触する状況になり、
話を要約すると、それがアステカ帝国やインカ帝国の滅亡につながった、とも言えるのです。
オレンジの味と香りを愛したイタリアルネッサンスの貴婦人たちは、
それが幾万人もの死と生存と戦争につながるとは、
想像すらしておられなかったでしょう。
ジャガイモ栽培が歴史に及ぼした影響
アステカ帝国やインカ帝国が滅亡したあと、
征服者たちの手によって、ジャガイモやカボチャがヨーロッパに持ち込まれました。
カボチャは割にすんなりと受け入れられたようなのですが、
ジャガイモが全ヨーロッパ地域に普及するには、いろいろともめ事がありました。
ジャガイモの画像
何故かというと、ジャガイモは種子ではなく、種芋で増える植物だったのが、
種で育てるのが当たり前のヨーロッパの農民たちには気味悪く見えた、という事と、
「聖書に載っていない作物」だった事が
熱心なキリスト教徒の農民にはネックだったようです。
しかし、収量が多く、麦が不作の年にも豊作になる便利な作物だったので、
ヨーロッパ各地の首脳たちは、
何とか自国民にジャガイモを作らせようと色々な政策をとりました。
その政策に成功した国は、その後ヨーロッパを襲った大飢饉を乗り越える事に成功し
(フランスやドイツ等)、ジャガイモが根付くのが遅くなった国は、
餓死者が多数出て国力が落ちました(帝政ロシア等)。
ジャガイモの不作で起こった悲劇
もっとも、その後ジャガイモの伝染病が大流行して、
ジャガイモの作付けが多く、主食の位置にあった国(アイルランド)では
餓死者が出て移民しなければ生きていけない、という事になり、
アメリカにアイルランド系の人々がたくさん移住する事にもなりました。
通称インカ帝国の、農業試験場でとにかく良いジャガイモを作ろうと努力していた技術者達は、
まさかこんな事になるとは全くの想定外だったと思います。
トウモロコシの現在の位置
トウモロコシ等に至っては、
今話題のバイオエタノール燃料等の材料となり、
戦略物資にすらなりつつあります。
この作物が多くの人を飢えから救ったのも事実ですが、
何やら複雑な気分になります。
或る学者の研究によると、
トウモロコシがこのような良き作物になるまでの品種改良に
8000年かかったという試算もあります。
あまりに長く改良にかかったので、原種植物がわからなくなり、
宇宙から来たというデマまでネットではたっております。
地球のアジアからヨーロッパにかんきつを適応させるだけでも1世紀かかったのに、
他の惑星からきたものを地球に移植するのは無理なような気が筆者はしますが・・・
それだけの皆を飢えから救おうという善意の結果が、
戦争の種になりかねないとは、実に皮肉なものです。
トウモロコシの画像
人間は、農作物を「作っている」つもりなのですが、
こうして見ると、存外農作物に「寄生」されて
振り回されているようにすら見える今日この頃です。
壊血病とかんきつの話
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%8A%E8%A1%80%E7%97%85
ジャガイモの話
https://www.fnsugar.co.jp/essay/yamazaki/35
トウモロコシの話
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%82%B7