あの時、わたしたちはカメムシを手にのせてよかったのか

まえがき―なぜ、「また」カメムシなのか 

先日、「30過ぎて初めてカメムシのにおいを嗅いだ話」という記事を執筆し、ありがたいことにスタッフの方々から激賞のお言葉をいただくことができた。目論見通り、私の武勇伝が活躍してくれて大変嬉しく思う。

そんな中、窓一面のカメムシと共に育ってきたというとあるスタッフの方から、衝撃の事実を知らされたのである。

「カメムシ、直接手にのせたんですか!?カメムシって毒ありますよね!?前に咬まれたことがあって、すっごく痛くて腫れたことがあったんですよ…」

えっ、カメムシって、咬むの?毒もあるの!?意外に感じて驚いた。カメムシは人によっては大変「くさい」と感じることがある分泌液を出す”不快害虫”として、また、農作物の液汁を吸うことにより農業に悪影響をもたらす”農業害虫”として、人間の生活に害をなす虫である、が…人間の健康を害する毒をもつ虫ではないはずだ、というのが、当時の私の認識だったからである。だが、少しも調べたことはなかった。完全な思い込みである。完全な、思い込み…ああ、なんということだろう。虫大好き人間として、私は、全然未熟だ…深い悔恨の念にさいなまれた。

しかし、へこんでいる場合じゃない。カメムシのにおいを是非再評価していただきたいと、前出の記事ではカメムシとのふれあいを一度は積極的におすすめしてしまったこの身である。カメムシは咬むのか?そして毒はあるのか?カメムシ嗅ぎに興味を持ってくれた誰かが、わくわくしながらカメムシを手のひらに載せたとき、もし、何かカメムシに傷つけられるようなことがあったら、私のせいかもしれない…責任を持って調べなければと思い立ち、カメムシについてもう一度、記事を書くことに決めた。

スタッフの方の証言において、押さえるべき重要なポイントは以下である。

  • カメムシは咬むのか、咬まないのか
  • カメムシに毒はあるのか、ないのか
  • 結局、カメムシは手にのせてもよかったのか

この記事では、これらの疑問を追っていきながら、われわれ人間とカメムシとの安全な距離感を探りたいと思う。ぜひ、みなさまに安心・安全にカメムシをスンスンしていただけるその一助になればと願う。

疑問その1 カメムシは「咬む」のか

みなさんは「咬む」と聞くとどんなイメージを持っているだろうか。キバでガブっと強く挟まれたり、かじられたりするイメージがないだろうか。だとすれば、カメムシが咬むのなら、やっぱりキバ的なものをもっているのだろうか。そもそも、カメムシの口はどうなっているのだろう。そんなこと考えたこともないよ!という方がほとんどだと思われる。そんなみなさんにとっては衝撃の事実かもしれないが、実は、カメムシの口は餌を「吸う」ためにストローのようになっている。以降、このストロー状の口を「口吻(こうふん)」と呼ぶ。

それでは、彼らは何を吸って食べているのか。ごくまれな例外を除けば、彼らの食性は大きく分けると草食性と肉食性の2つである。みなさんがそのへんでよく見かける、緑だったり茶色だったりして、幅が広めの五角形の身体をしている、「あの」カメムシは草食性である。代表的なものとして、「クサギカメムシ」や「ツヤアオカメムシ」などがある。彼らは植物の葉や茎、果実に口吻を刺して、その汁を吸い取る。なんだか人間がヤシの実にストローを差して飲むのに似てますよねえ。そうでもないですかねえ。ちなみに、カメムシが農業害虫といわれるのは、人間の農作物も食べ物にしてしまい、ダメージをあたえて人間の食べ物をだめにしてしまうからである。

一方、肉食性のカメムシは、他の昆虫などに口吻を刺して獲物を麻痺させる効果のある液体や消化液を流しいれ、溶けた体を吸って食べている。すみません。ぞっとしましたよね。すみません…。こちらは代表的なものに「サシガメ」という種類がある。また、水生昆虫のタガメやアメンボなどもその仲間にあたる。そして彼らは、危険を感じたときには、その口吻で人間を刺す。そう、これが「カメムシが咬む」ということだ。人間を咬むのはほとんどが肉食性カメムシである。そこらじゅうにいる草食性カメムシはめったに咬まないので、まずそこは安心していいところかもしれない。

肉食性カメムシであるサシガメは、草食性カメムシとは姿かたちが異なり、より細長いイメージが強い。見慣れていないと、姿を見かけてもカメムシとは思わないはずだ。とくに、市街地でもその姿が見られる「ヨコヅナサシガメ」は樹木の幹の上部で活動していることが多いため、よく目にする虫ではないかもしれないが、6〜7月ごろになると産卵のため低いところへ降りてくるので注意が必要である。あまりにもかっこいいので、うっかりさわらないよう注意してほしい。あくまで危険を感じて人間を刺すのであり、みなさんをドロドロにして食べるつもりはないはずなので、そっとしておいてあげてほしい。

結論「カメムシは咬む」。

だが、市街地で日常生活をおくるうえでは「カメムシは基本咬まないけど、中には咬むのもいる」という認識がちょうどよいのではないかと思う。とはいえ、である。もしカメムシが咬むのなら、毒があるということになればたいへんなことになるんじゃないですか!?

疑問その2 カメムシに毒はあるのか

前の章でおぞましいことを書きました。サシガメに代表される肉食性カメムシは、口を刺して消化液を送り込み、獲物を溶かして吸うのだと…。彼らが人間を襲うとき、同じように口を刺して消化液を出す。これがそれはもう大変痛いらしい。自分は非常に残念なことに、虫にあまり刺されたことがないのでよくわからないのだが、ハチをも凌駕する痛みであるという話もある。腫れやかゆみの症状をともない、この痛みやかゆみは1週間ほど続くそうだ。ただ、悪質な病気を媒介したり、重篤なアレルギー反応が起こったりするというケースは、日本に生息する種に関しては情報がないので、過度な心配はいらないのかもしれない。

ところで、そのへんにいる草食性カメムシは、くさい(※感じ方には個人差があります)だけで、私たち人間にとって、ほかに何の害もないのだろうか。実は、カメムシのあのにおいを放つ分泌物は、まともに皮膚への直撃を受けると、かゆみや炎症を起こすリスクがある。私もカメムシに刺されたことこそないが、手に分泌物が付いたことがあり、少しかゆいな〜と思ったことがある。これはアルデヒド類という物質が含まれることに由来するそうだ。場合によっては、かぶれて色素沈着を起こすこともあるのだとか。カメムシのことをそんなに好きではない方からすれば、カメムシが素肌に付いてにおいを噴射され、くさいし、かゆいし、ともなれば…これほどの不幸、これほどの悲劇はないかもしれない。

さて、カメムシによるこれらの害を「毒」と呼ぶべきなのか。痛い「だけ」といえば、痛い「だけ」なのではないか…それも「毒」と呼んでもいいのか。確かに辞書をひけば、「毒」とは「健康や生命などに害をあたえるもの。」と書いてある。(出典:三省堂「現代新国語辞典 第六版」)。この定義に則ればカメムシには毒があるとするのが妥当かと思う。

結論「カメムシに毒はある」。

ただ、なぜ私が「カメムシには毒がある」と言い切ることに躊躇するのかというと、そのことがカメムシと共生していくなかで、みなさんに過度な不安をあたえてしまわないかという懸念があったからである。よほど余計なちょっかいをかけなければ、それほど恐れる必要のない程度の害である。生死にかかわるほどの毒を持っていたり、病気を媒介するような、もっともっと危ない生物はこの世界にたくさんいる。だから、われわれ人間とカメムシには、上手なお付き合いの仕方があると思う。

疑問その3 結局、カメムシを手にのせてもよかったのか!?

ここまで「カメムシが咬むのか」「カメムシに毒はあるのか」について私が調べてみた情報から見解を示してきた。総合すると、カメムシなる虫は「危険性は低いが毒を持ち、まれに刺されるととっても痛い虫」であるといえよう。

では、カメムシがいかなる虫かを踏まえると、そもそもこの記事を書くことになった発端である「カメムシを手にのせる」行為は、これは果たして適切であったのか。まちがいなく、適切ではなかったであろう。草食性のカメムシであったため、刺すリスクはほとんどないものの、本人は特に皮膚症状が出なかったとはいえ、かぶれる可能性のある分泌液を素肌で受けるのはとても推奨できる行為ではない。

今後、我々はいかにして安全にカメムシとお付き合いすべきなのであろうか。(※そもそもカメムシとなるべくかかわりたくないよ~!という方に関しては、害虫対策を専門としている企業のウェブサイト等をご参照いただきたい)それは、ここまでカメムシについて記述してきた内容を踏まえると、「カメムシを素手でさわらない」ことに尽きるのではないか。

たとえば、屋内に入ってきた草食性カメムシを外に逃がすとき。シンプルだが、何か素手以外のものに載せたほうがよさそうだ。紙に載せてそっと刺激を与えず、それでいてスピーディに屋外に逃がせる達人もみなさんの中にはいらっしゃるだろう。より安全を期するなら、食品用の使い捨てのカップや、上下を切り離したペットボトルに入ってもらい、すかさず紙などでふさぐなどすると良いと思われる。というか、みなさんそうしてますよね。素手でつかんでリリースできる猛者がいるのだろうか…無事、におわせず放たれる逃がすことができるのだろうか…と、「素手でさわらないに尽きる」などと言いつつも考えてしまう。なんだか”挑戦者”の血が騒ぐ。

また、肉食性カメムシについては、先述の通り、危険を感じると刺されてしまうので、こちらも素手で触ることのないよう、くれぐれも注意すべきだろう。ただ、容姿を把握していなければ、虫好きは「かっけ~!」と何も知らずにウキウキで触ってしまうかもしれない。有名な「ヨコヅナサシガメ」は白と黒が交互に配色された外見が目立つため、知ってさえいればうっかり触ってしまい激痛の一刺しを食らう悲劇は避けられよう。一度はぜひサシガメの容姿を画像検索で見ていただけたらと思う。

そして、もしカメムシの分泌物に触れたり、刺されたりした場合には、当たり前ではあるがなるべくすみやかに流水で洗浄しよう。基本的には自然治癒するものであるが、炎症や痛みかゆみがひどい場合には無理せず皮膚科を受診すべきかと思う。

さいごに―カメムシ、とひとことで言っても

今回、この記事を書くにあたってカメムシについてさまざまなウェブサイトを調べた。そして、いかに自分がカメムシなる虫を知らなかったか、とくと思い知らされた。実は、カメムシという虫の世界は非常に広いのである。調べれば調べるほどわからなくなっていく。

強調しておきたいのは、このたび取り上げたのは、日本の市街地に生息するごく身近なカメムシのみである、ということだ。

広義のカメムシには先述の通り、タガメやアメンボといった肉食性の水生昆虫も含まれる。昔、水遊びをしていて刺されてビックリしたという話も聞く。また、カメムシには吸血性のトコジラミも含まれる。一時期、宿泊施設での被害が話題になったため名前に聞き覚えのある人もいるだろう。海外に生息するカメムシのなかには、危険な感染症を媒介するもの、トコジラミ以外にもヒトを標的に吸血する種も存在する。「広義のカメムシ」の人間に対する危険性は、この記事では全然不十分である。うわさのトコジラミに関しては、知らないうちに家の中に入れてしまうと、駆除が大変なことになりうる非常に厄介なカメムシなので、ぜひ専門の業者によるウェブサイトを参照していただきたい。

この記事の結論は「カメムシは素手で触るべからず」この一言に尽きる。

私の前回の記事をお読みいただいてカメムシを吸ってみたくなった方、検索でサシガメのカッコよさを知ってしまった方がもしいらっしゃったら、それだけ肝に銘じて、ふれあいや観察を楽しんでいただけたら幸いである。それではみなさん、カメムシのある素敵な生活を!

☆★おまけ♡筆者のひとりごとコーナー★☆

私はほぼ虫に刺されたことがない。蚊にさえも、子供時代に刺されたことがあるような気がする程度で、大きくなってからは全然刺されない。もし蚊に刺されるようなことがあれば、じっくり観察してみたい。私は採血で自分の血が容器を満たしていくようすを見るのが好きなのだが、蚊のおなかが私の血でふくれていくところを見るのも絶対見てみたい。

ところで、私はピアスマニアである。ピアスを開ける際に使うニードルという中空の針は、直径1.2mmや1.6mm。これで皮膚や軟骨を貫通するのだが、この記事を書きながら、ふと「ニードルってサシガメの口より太いのでは?」と思ったのである。一体、ピアスを開けるのと、サシガメに刺されるのと、どちらが痛いのか。いま、それが気になって気になって仕方ないのである。

そのためにはピアスを開けるということがどれだけ痛いことなのかをお伝えしなければならないのだが、これがまた、表現が難しい。よく「痛くないんですか?」と聞かれると、「痛いけど、痛くないです!」みたいなことになってしまう。無痛ということはありえないし、なるべく早く終わらせたいくらいには痛い。ただ、ピアスのオタクは、痛いとか痛くないとかいうのは、正直どうでもいいことなのである。

(痛みに)負けないこと(開けるのを)投げ出さないこと(失敗する恐怖から)逃げ出さないこと(うまく開けられることを)信じぬくこと、ピアスを素敵にかわいく開けたいときはそれが一番大事なのだ。情熱と執念が生み出す集中力のもとでは痛みなど、ただの情報でしかない。逆に言うと、そのくらいの気合と覚悟が必要なくらいには痛いということかもしれない。

そういうわけで、虫への強い気持ち、強い愛があるならば、ヨコヅナサシガメの一刺しも、「意外とたいしたことないじゃないか」なんて思ってしまうものなのではないかと、なんだかドキドキワクワクしてきてしまう。私はまだ会ったことがない。会ってみたいなあ。思いが募るあまり、夢の中で刺された。夢の中ではけっこう後悔していたが。

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山都ウミ

とってもひよわです。札幌出身、仙台在住。いまとなっては仙台大好き。サッカーと相撲と虫も大好き。

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