「…それでさ、財団のこの案件はこういうやり方がベストだと思うのよ。姫もそう思うでしょう?」
「真…貴女のその短絡的発想でいくつの不都合が今起こっているかわかっているの?」
見目麗しい黒髪ロングヘアの少女はボブカットの愛くるしい印象の相棒に対し、毎度変わらぬお説教を始める所であった。
どこまでも静寂が続くような落ち着いた空間のVIP専用フロアにまた賑やかなひと時が訪れているのだ。
ロングヘアの少女の傍に控えている黒服たちはいつもながらの光景を微笑ましく見守っていたが、そのうちの一人がチーフであろう人物に耳打ちをしていた。
チーフである黒服は報告内容に眉をひそめてから頷く。
彼の主が直接対処しなければならない事態が起きたのだ。
チーフはなるべく手短に報告をするべく脳内で情報を整理し、一呼吸置いて口を開いた。
「優華お嬢様…”黒曜石の瞳”の件で動きがあったようです。今共有をして頂きたいのですがよろしいですか?」
恋人に語りかけるかのような甘い口調で話しかけられたロングヘアの少女は気だるげに頷く。
「そう…ではこの事案は後回しでいいわけね。それとも真、貴女ひとりで進めておく?」
ボブカットの少女はその言葉を聞いて途端に目を輝かせ激しく首を縦に振る。
その瞬間黒服たちは一様にざわめき動揺の渦が生まれてフロア内の空気が一気に温度を下げた。
優華は自分の口から出た失言で余計な仕事が山盛りに出現したことを自覚して口を押さえるがもう遅い。
いつもながらの忙しい日々が今日も始まっていくのを優華は苦々しい思いで受け止めるしかなかった。