まさかこの藤御堂本家の敷地内に単身乗り込んできているわけではないよね…?
悠華は目の前で余裕を漂わせている白い仮面に漆黒のボディスーツの男を観察していく。
見るからに荒事を得意としているのがわかる肉体、迷いなく対象物の命を刈り取るという澄んだ意思、乗り越えてきた鉄火場の数を雄弁に主張している鮮血の匂いと気配。
それらがこの男が紛れもない手練れだということを悠華の意識に伝えていた。
そして耳につけられた黒真珠に似た輝きを放つ石があしらわれたアクセサリー。
ここ最近の面倒事にコイツも連なっているのか?
正直言って悠華は気分転換の散歩程度の労力で済ます気でいたが、この事態は簡単に終わってくれなさそうだ。
よりによってこのタイミングで「黒曜石の瞳」か…
未だにどれほどの被害が出るかわからずどのような不都合がもたらされるか不明な代物。
できれば万全な状態で臨みたかったがこの際文句を言ってもどうにもなるまい。
面倒事レベルが跳ね上がったことをしぶしぶながら認めた悠華は考えるべきことを心の中で復唱して段取りを整え始める。
宵闇のもたらす冷気はあたりの空気を非現実そのものに塗り替えていった。