吹き付ける夜風が体温のみならず精神の健全性すら奪っていくように感じる。
悠華は一通り自分の手札を確認してこの場のベターな処理の仕方を組み立てていく。
まず異能でコイツの意識を飛ばして無力化するのは展開中の儀式場が暴走する危険性があるからナシ。
それに「黒曜石の瞳」の機能は未だに明らかになっていないものが多すぎる危険物だ。
なのでコイツ自身の危機感を煽るのも避けたい。
…となると残っている選択肢は?
悠華は今までの戦歴を思い起こして選択肢を俯瞰する。
私の異能である「救済の炎」は”対象の害意や敵意を消去する”と同時に”「争う」や「戦う」という意思を持つ者の意識を灼きつくす”という力だ。
ゆえにその炎に晒された者の自我は基本保証できない。
まあ手加減すればトラウマになる程度で済むけど、あんまり暴れられても嫌だな。
悠華は荒事の線を排除して検討した結果、携帯していた異能のリミッターを強めに作動させて穏やかに眠ってもらう形に決めた。
そして交錯する視線が間合いを詰めるきっかけとなり、悠華は男の眉間に視線を突き刺して…気付いた。
自分の意識がいつの間にか微睡んでいる。何故?
崩れ行く現実感の中、男の白い仮面がなんとも愉快な笑顔に見えた一瞬後に悠華は自分の意識の統制権を手放すこととなった。