…ねぇ悠華ちゃんも一緒に遊ぼうよ!みんな待ってるよ!
それは遠い日の、かつて自分の手のひらから零れ落ちたはずの日常の記憶。
そう、自分の可能性は計り知れないほどあって望むものは全て目の前に存在していた。
あの日の私はこの陽だまりのような温かい毎日がずっと続くことを疑いもしていなかった。
自らの愛する人たちと日々を楽しみ、いつか特別なパートナーとありふれた幸せ紡いでいく。
そんな普通の幸せは自然と叶えられると思っていた。
しかしあの日、「救済の炎」の異能が私の中に生まれた時に完全だった日常は崩れて現実という言葉が私の心を縛るようになったのだ。
理想という言葉はかつての輝きを失い、幻想や空想を示す代名詞になったはずだ。
では今目の前にいる彼女は何者なのか?
いや、もしかしたらあの日以来起きたことはひと時の夢であり幻だったのではないか。
悠華の意識は急速に混濁して虚実の境目が崩れていく。
…そうだこの手を取ればまたあの日の平穏な日々が現実になってくれる。
悠久の揺りかごのような心穏やかな日常が当然のごとく過ごせるはずだ。
悠華の意識レベルはもはや現実や事実認識が不可能な状態まで低下していた。
そうだ私が今求めているのは目の前の彼女が私の穏やかな日常を許容してくれるということだけだ。
幻想的に揺らめく悠華の意識は判断能力を手放していた。
その様子を満足げに見ていた彼女は満面な笑顔で許容の意思を示している。
彼女の歪んだ口角に隠し切れぬ愉悦の色が浮かんでいた。
