…様!お嬢様!お気を確かに!
まだぼんやりとする意識の中、聞き覚えのあるメイド達の声がいくつも聞こえている。
そうかもう起きる時間だったかな?
今日の予定は朝食の時間にゆっくり考えて…
悠華の意識はまだ現状認識が出来るだけの余裕が無いようで、現実はその形を未だに成していない。
お嬢様!ここにいては危険です!退避ルートがもう塞がりかけていますッ…
段々とクリアになっていくその声のトーンが急速に悠華の意識レベルを引き上げる。
ぼんやりと霞がかった視界が現実の色を認識し始めて、悠華は自分の目を疑った。
屋敷が、「この藤御堂本家の様子がおかしい」。
いつもは整然と整えられた中庭は熱帯雨林のごとく植物が繁茂し、異形の怪物たちが暴れている。
辺りには血の匂いが充満して獣の気配がまき散らされている。
普段の静謐を保っているはずの異能者・侵入者対応用結界はその機能を喪失しているようで、居心地の悪い空気が本家敷地内を覆っているのだ。
悠華は自分を抱きかかえているメイドが自失寸前なのを見て、目の前の事態が現実なのを受け入れざるを得なかった。
とりあえず事態の把握をしないと…
悠華の意識領域が稼働して指示を出そうとした瞬間、メイドが居たはずの空間ががら空きになっていることに気がついた。
高鳴る鼓動と直視したくない現実を拒否しようとする悠華の視界に禍々しい事実が映される。
それは日々の日常が何者かによって塗り替えられたことを自覚させる責務を悠華に背負わせるモノだった。
