現状把握の解像度が上がり、悠華の意識に現実が映し出された。
まるで廃棄されたマネキン人形のごとくありえない方向に腕や足が曲がった人体。
生物としての脈動が感じられないその在りようは現実という言葉の残酷さを如実に表しているように感じた。
駄目だ…コレは認識してはいけない情報だ。
悠華は自分の意識のセーフティフィールドを前面に展開してショック衝動を抑える。
私がここで恐慌状態に陥れば今この場を収束させられる者は他におそらくいないだろう。
この場の異様な空気の重さがその直感の正しさを示している気がした。
しかしどうする?
多勢に無勢の無法地帯であるこの状況、何から始めるべきだ?
悠華はより平然としたメンタル状態を意識的に保ち、持っている選択肢を俯瞰してみることにする。
まずは敵の異能行使によって乱された現状の元を探っていくべきか。
それとも現状で動ける者達との連携を取る事か。
違うな…
自分が考えたにしては悠長すぎる内容に焦りが助長されて腹立たしくなる。
そんな悠長な数舜後、敵意があからさまに自分のところへ集中しているのを感じた。
ぼろぼろになり満身創痍な様子の黒服やメイド達がまるで野獣のごとき気配でこちらに向かっているではないか。
先程メイドを吹き飛ばした黒い人影も悠華へ意識を向け、こちらに近寄ってきている。
彼らの目は明らかに正気を失っていて、禍々しい深紅の光を漲らせている。
これは意識の鎮静化だけをしてオシマイというわけにはいかなそうね。
悠華は絶望的事態観測を渋々ながら受け入れると、次の展開を考える。
敵意と害意渦巻くこの場に新たな可能性を打ち立てる為に。
