祝杯を挙げたはずの執務室の空気はあまりにも静かに流れていて、その主がもうこの世にいないことを示すのに十分な重さを持っていた。
「…それで今回の事案はどういうことだったのか説明してくれるかな?ミス斎木。」
憮然とした表情でこの場の主の副官だった男は真に対して説明を促した。
いくら日頃の融通を効かせた借りを返すという面での弱さはあれど、事が終わったら片づけておいてね後はよろしくみたいな対応では納得がいかないと顔に書いてあった。
真は心底不満気な男を面白そうに眺めて返答を返す。
「そうだね。ここまでの手引きと内通役をしてもらったあなたには一通りの説明をしておく必要があるね。」
さてどこまでの情報を今回の報酬とするかなあ…
先程鬼籍に入れたこの執務室の主の目は虚空を見つめながらもそこには何も映していない。
呆然自失を張り付けてある顔はまるで絶望がモチーフの石像のようだ。
その有様を見せたからには副官の彼にも共犯になってもらう必要があるかな。
一通り現状把握を済ませた真は怪訝な目で情報開示を待っている副官の男に説明を始める。
「まず基礎知識としての前提だけど私についてどこまでの情報を持っているのかな?」
真は値踏みをするように副官の男を舐めまわすように視線を絡ませる。
もう既に男の存在があらゆる関係各位への外交カードの一枚になっているのだ。
その価値がどれほどのモノか確かめる必要もあるだろう。
真の露骨な品定めに対し逃げ出したい感情を抑えつつ、男は慎重に言葉を選んで答えを返す。
「”フェイクヴィジョン・ブレイズ”…現実を”嘘”にする異能を持つ藤御堂家の私設護衛部隊の一員である、というのが私の持ち得る情報の全てだ。財団の暗部機密管理は業務外だったのでね。」
当然なはずの必要最低限の情報開示。
その言葉を選んだ意味を男はこれからじっくり味わうこととなった。
