涼やかな風がいつものように流れていく。
その空気の心地よさは日常が戻った実感を感じさせる。
藤御堂本家に呼び出された真は悠華の私室に呼び出され、久々のガチな説教を小一時間頂いていた。
「貴女は当然今回の事を予見し、把握していたはずよね?釈明があるなら聞きましょうか。」
先日の本家への襲撃事件は関係各位に詳細を秘匿されているようで、悠華も全容は未だに掴めていない。
あの日充満していた殺伐とした空気はまるで古代に滅びた廃墟を思わせ、破滅の冷たいイメージを嫌でも感じる状況だった。
非現実という言葉しか似合わないあの空気感は現実の非情さそのものを具現化したようなモノだったのだ。
そんな状況下での「臨死体験」は想像を絶する恐怖を悠華の心に刻んでいた。
全ての感覚や記憶が吸い出されていく感覚、もう黄泉の国の入口らしきモノが見えた実感などは今後忘れられない記憶になるだろう。
そもそも真は自らの異能で解決する段取りを組んでいたならそれを共有しておくべきだった。
怒り心頭の悠華は自分が今冷静なコミュニケーションが可能かどうかわからないので、とりあえず真からの釈明の言葉が欲しかった。
しかしそれっぽい謝罪が聞けるまで小一時間説教することになった。
だがこのままでは話が進まないので悠華は渋々真に状況説明を許可することにした。
交錯する視線が意思疎通の難しさを感じさせる。
真は一呼吸置くと覚悟を決めて現状説明を始める。
今や主演となった我が主が歩むべきシナリオを、真は神託のごとき真剣さで語り始めた。
