あまりに現実性のない話が続いて悠華のご機嫌は明らかに傾いている。
真は不機嫌モードをこれ見よがしにしているわが主に面倒臭さを感じつつも、自らの責務を思い出して役目を全うする意思を固めた。
このお嬢様に気持ちよく踊っていもらわなくては今までのお膳立てがご破算になる。
何よりご当主様に怒られるのは慣れることができないからな。
”歩く破綻要因”として傍若無人を絵に描いたような振る舞いが日常的な真であったが、悠華の父である藤御堂家の現当主は真のほぼ唯一の理解者であり庇護者でもある。
そして実務の場においては精神的支柱としてバックアップしてくれる大切な存在なのだ。
それ故にこの場の失態でその信頼や期待を裏切ることはできない。
…しかし何から説明するべきかな。
真は自らの手札を吟味しつつ戦術を組み立てる。
悠華とは長い付き合いであらゆる攻め手や搦め手が把握されている状態だ。
普段はその筒抜け状況で勝負するのも楽しみのうちだが、これは外すことのできない未来を賭けた勝負である。
できるだけイレギュラーな要素は排除しておきたい。
いつもは用意されたレールを自分好みに敷きなおすのが趣味の真であるが、ここは事前に検討した固い案で行くことに決めた。
「そうだね…やはり我が姫君には悠然と旗印を掲げてもらうとするかな。」
真はより挑発的な、いたずらな笑顔でプレゼンを終えることにする。
「これ以上の情報開示はご当主様直々の許可がいるのでね?以前出向いてもらった別邸にへ来てもらうよ。」
不自然に嬉しそうな真に不穏なモノを感じた悠華であったが、現状の自分に拒否権は無い事を自覚して真の提案を追認することにする。
悠華の心に不安な気分が広まっていく。
それにしても今回の絵を描いたのがお父様だとするとかなり面倒なことになりそうね。
事態の不穏さに想いを巡らせて悠華は天を仰ぐ。
真はそんな悠華の物憂げな横顔を興味深く眺めている。
…運命の歯車の回り出す音が二人の意識の中に響いていた。
