静まり返った空間に雨音だけが静かに響いている…それは何かを悲しむ誰かの涙のように聞こえていた。
藤御堂家の人間がプライベートな時間を確保するための別邸。
その私室のひとつで密談が行われていた。
「これが君が願ったモノの対価かね?」
「ええ…今あなたにとって何より価値のあるモノでしょう?叔父様。」
静けさがこの来賓対応用の部屋の空気をより重くしている。
目の前で自らの問いかけを軽くいなされた男は満足げな表情で微笑む銀髪の少女へ再度問いかけを投げた。
「今の時点の悠華と真のポテンシャルの程度は知れたが、かなり不信感は抱かせたようだ。さらに君たち”ノワール派”にとっても今回割いたリソースは安くはなかっただろう。あれほどのリスク負った意義はあったのかね?小山内君。」
男は少女に対して今回の戦術について意図を探らずにはいられなかった。
それは藤御堂家現当主としての役目からだけではない。
財団の中でもよりイレギュラーな事態を起こすだろう目の前の少女が持つ影響力を鑑みてのことだ。
”ブリザード・レガリア”、小山内紗絵。
主に不穏分子事案対処を行う小山内家の中でも当主令嬢である紗絵が率いる””ノワール派”は対象人物の意識掌握や自我操作などを得意とする異能者集団であり、人間のメンタル面を制御・支配することで外部折衝補助や要人を失脚させるなどその任務は幅広い。
そしてその集団を統括する紗絵の異能は”事象の因果可能性を限りなくゼロに近づける”というモノ。
それは正に「事象を氷漬けにする異能」であることを意味する。
””ノワール派”が手を下した対象はほぼ例外なく歴史の闇の中へ葬られる運命だ。
そのような「問題因子」を闇から闇へ葬ることを役目としている彼女が自分にアポイントを取ったこと。
その意味を察しない男ではなかったが、確かめておかなければならない紗絵の真意を言葉として聞いておく必要があると感じていた。
それが我が娘の処刑宣告を聞くことになったとしても、だ。
そして男は意を決して口を開いた。
「藤御堂家当代当主、藤御堂厳慈の名をもって改めて問おう。今回の”黒曜石の瞳”の実戦データで君が得られたモノは何だったのだね?」
その言葉はすでに冷え切っていたこの場の空気の体感をさらに急激に下げた。
厳慈から放たれる威圧をむしろ心地よく受け止めた紗絵はむしろ堂々と弁明を始める。
自らのシナリオが全ての運命を決めると確信の上で。
