そうか…藤御堂の当主殿が囚われたか。この先の利権争いだけでアジア圏がかなり騒がしくなるな。
優雅なブルゴーニュ用ワイングラスを傾けつつ男は報告を受け入れて、簡単な所感を呟くと部下へ下がるように命じた。
その様子を憮然とした表情で見ていた銀髪の少女が男の悠然とした態度に耐えかねて所見をぶつけていく。
「お父様…いくらお姉さまが特例で許容されている身だとはいえ、この度の独断専行はあまりにも度が過ぎたモノではないですか?表立って批判できないからと放っておいたままではこの小山内家の存続にも関わります!」
男は愛らしい容姿に似合わぬ強烈な物言いの娘に対して一通りの宥め方を試す。
「玲奈。私は紗絵だけを特例にしている訳ではない…あの子にも望むべき理想がある。それを認めてやってはくれないかね?」
「だからといってッ…」
吹き出す感情が収まらない玲奈は自分の意図を汲んでくれない父に対して尚も食い下がろうとする。
男は娘の様子を持て余したように困った表情を見せると、傍らに控えていた執事長へ目くばせをした。
その視線の意図を察した執事長は攻撃態勢を未だ崩さない玲奈にひとつの提案を持ちかける。
「玲奈お嬢様…紗絵様の望んでいる理想像の場を一度観にいってはいかがですか?それでこそ得るモノがあると私は愚考します。どうでしょうか。」
執事長の言葉に予想外の提案が含まれていたことに少々驚きつつも、玲奈はソレが許されるものなのか父に控えめな視線を送った。
男は満足げに頷くと柔らかな微笑を返す。
それを見て玲奈の胸中に期待の炎が着火した。
舞台の脚本はまた静かに1ページ捲られることとなった。
