想定できない理不尽にこそ対策が必要なのです。その為の組織でありコネクションでありましょう!
登壇者は朗々とした声で持論を展開していく。
自らが組み上げ、育ててきた稼働環境の解説に始まりビジネスプランの立脚点やこれからの経営ヴィジョンを熱を込めて演説する様は正に組織にとってのカリスマであり尊敬すべきリーダー像である。
やがて登壇者の彼は予定の議題を話し終えて用意された水を一口飲み、会場の聴講者へ激励の言葉を送り話を終えた。
数秒の静寂が通り過ぎた後、この広々とした講堂に割れんばかりの拍手が響く。
それは皆が待ち望んだ英雄の凱旋を改めて祝福するものだ。
登壇者の彼はそれに許容の意思を示して一礼し、降壇していった。
しかし講堂に残された聴衆の熱気は収まらず、先ほどの公演の検討会がそこら中で始まっている。
…これは何とも厄介な事態になりそうだね。
真はたっぷり二時間半ほど公演を聴いて内容を咀嚼した後、これからのシナリオを練ることにする。
今回開示されたのはGRN社アジア圏日本支部が異能者雇用及び実践配備のメインポータルとなることと、財団が異能者の運用シミュレーションをバックアップすること。
異能者犯罪をこれからは表立って対処することによる異能者囲い込みのアドバンテージをGRN社がほぼ独占することになる可能性が高いこと。
これからの安全保障問題に異能者対応が必須になること。
つまり世界中のパワーバランス、交渉・外交カードの偏りが不穏な勢力の暴発を誘発しかねない状況である。
そうなればヨーロッパや北米・南米、中東諸国など独自の自衛コミュニティを持つ国々から公的に避難の声が上がるのは必然だろう。
大規模な戦略兵器に頼らずとも同等の軍事力を持つ異能者の存在は世界のあり方を根本から変えていく。
人間の生殺与奪権を一部の団体が独占すると公表するのは世界中の国々に宣戦布告するのと変わらない。
それでも世界的メディアに対して公表したという事実が示すモノはひとつ。
「世界中と交渉できる切り札がある」だ。
財団が一枚嚙んでいる以上、真が仕える藤御堂家もこれからの方針を公式に発表する義務がある。
どこまで仕組まれていたのかは知らないが、当主不在の中悠華は様々な不可能案件を捌かなければならない。
その為のとっかかりが少しでも得られればいいと思ったが、肝心の虎の子は今日姿を見せなかった。
…とりあえず事実確認は済んだし今日のところは雑談で顔を繋いでおくぐらいにするか。
真が意識を切り替えて雑談に加われそうなグループを物色していると、明らかな異物が視界に映った。
艶やかな銀髪に怜悧なサファイアブルーの瞳…ミッドナイトブルーをメインにしたその装いはこの場の主権を喰ってしまっている。
そして雑談に興じていてもその美貌が放つ威圧感は対峙する者を屈服させうるモノだ。
真は意を決してその魔獣のもとへ赴いて、挨拶を投げかけた。
「これは小山内家の…紗絵お嬢様。奇遇なものですね?少しお時間いただけますか?」
明らかに誇張した挨拶を受けた紗絵は真の方へ振り向き、柔らかく微笑んで見せる。
その笑顔が示した運命の意味を察し、真は乾いた笑いを返すことしかできなかった。
