それはあなたが考える範囲の中の現実でしょう?
投げかけられた言葉に対して返す言葉が無かった。
いつでも彼女の論説は正しく、明瞭に問題を解決していった。
いつしか彼女のやり方だけが施行することを許され、それによってコミュニティの発展も目覚ましいものとなる。
名実共に彼女はコミュニティの意思決定権を握り自身の理想のままに組織を肥大化させていった。
それによって日々のルーチン策定すら不可侵領域となり絶対的支配者となった彼女は人々の運命そのものを左右することになる。
それは未来の可能性がほぼ全て失われた事を意味する状況であった。
「…これは記録物としてはかなり物語的だね。いや一神教の創世神話でもこれほど誇張された表現が出てくることはそうそうないよ?そこのところどうなの悠華。」
報告書類の束を執務室のテーブルに投げ出すと、真は半ば呆れ顔で解説を要求する。
このままでは神様を討伐する伝説の武器とかが必要とか言われそうで怖い。
その様子をおかしそうにする悠華ではあったが、一応業務としての情報共有をしておくことにする。
「そう、今は財団の裏事情を調節役を一手に率いている彼女…”サイレンス・メイデン”こと斎木杏奈さんは関係各位からの信頼が厚くてね。彼女の非公式ファンクラブが暗部の秩序を維持しているという情報もあるほどよ。」
真は心底どうでもいい情報を右から左に流すと聞くべきことだけを改めて問うことにする。
「ん…それでその暗部のアイドル様がどうしたっていうのさ。全国ライブツアーのエスコートでもすればいいわけ?」
やる気がとっくの昔に霧散していた真は適当な軽口で茶化してみる。
まあ当たらずといえど遠からずなところだろう…場合によっては誰かに押し付けよう。
職務放棄のプランニングを真面目に検討し始めた真はとりあえず悠華の返答を待つことにした。
その様子を見た悠華はため息とともに首を横に振り、肩をすくめた。
「そんなことで話が済めば良かったのだけれど、お爺様が対外対応で彼女を軸にした体制を推しているの。そしてそのプランは異能者の生体ネットワークを日常的に常時配備することを目的としていて…」
悠華の説明は続いていたが、真はそれ以上の情報の取得を無意識に拒否していた。
藤御堂の御前様が例の”イージス・チャネル”のプランを推している、と…?
それは戦時体制への移行を意味することだ。
そうGRN社との連携だけでなくその方面の動きを加速させるということは軍事力で世界の主導権を取りに行くということに他ならない。
馬鹿な…子供じみた世界征服でもする気なのか。
真は悠華に対してこの件の対応指針を求めるべく視線を合わせ、真意を問う。
悠華は熱烈なそのアイコンタクトに応じ、しょうがないなとため息をつく。
一呼吸おいて藤御堂宗家専属のホットラインを開いた悠華は祖父へのアポイントを取ると、改めて真にアイコンタクトを返す。
「もう後戻りはできないわよ?いいんでしょう?」
それは歴史の表舞台で踊る覚悟を確認するもの。
宿命の歯車は主演の登壇準備が整ったことを祝福するように軋みを鳴らして動きだすこととなった。
