重苦しい空気が悠華の私室に満たされていた。
いつもは軽い冗談で流す真も黙り込んで悠華の言い訳を聞いている。
これまでの自己裁量では済まない現実に踏み込んだ事実は二人の意識を大いに揺るがした。
これからも今の事案に関わるのであれば日常の保証はあるまい。
しかし「現実」を知った以上何の疑問を持たず割り振られた任務に勤しむということはできないだろう。
そして先日の謁見で吹っ掛けた言葉を思い出して悠華は憂鬱な気分を持て余していた。
とりあえずの言い訳を終えた悠華は一息つくと深呼吸をして用意してあったハーブティーを口にする。
いつものお気に入りのはずのその香りまでもが今は悠華の意識をかき乱していた。
いくら大切な相棒のためとはいえ先走りすぎたかな…
悠華は改めて自分が啖呵を切った内容を整理していくことにする。
あの場で提案したプランは3つ。
まず日常的な戦時体制を稼働させなくてもいい対外戦略の提示。
そしてひとつのコミュニティに軍事的脅威が偏りすぎない為の監視・管理機関の建付けの提案。
最後に異能者を軍事リソースとして酷使できない世界的な枠組みの提案発信。
どれもが今悠華ひとりで背負える話ではなかった。
それに今悠華が頼れる大人はほぼいない状況…藤御堂家現当主である父親のバックアップも無い今、悠華独自のコネクションでそれだけの仕事を相談できる当ては無い。
悠華の頭の中をぐるぐると心配事が巡り、思考能力も鈍っていた。
その様子をじっと見ていた真は意を決してひとつの提案を持ち掛けた。
「ねえ悠華…この事案は初めて任務を任されたあの時に似ているよね。だったら今一度初心に戻ってセンパイたちに相談してみようよ。久しぶりにアカデミー時代の恩師にも会いたいし。いいよね?」
いきなり「今日のティータイムのお菓子どうしようか?」レベルのテンションでプレゼンされたその案を却下してお説教しようとした悠華ではあったが、一度思いとどまり検討してみる。
なるほど…まずは自分の足元の日常がおろそかになっていてはどんなプレゼンも砂上の楼閣にしかならないだろう。
まず自分が守るべき日常を確認しておくべきだな。
悠華は真に目配せをすると今後の日程を細密に組み始める。
その目には現実をねじ伏せるための意思がしっかりと宿っていた。
