今日はどんな無茶ぶりをするんだい?
あまりにも落ち着いた口調で話の先を促した年配の女性。
その穏やかな笑顔からはかつての苛烈な「指導」を連想させるモノが無い。
それだけに悠華や真はどういった切り口で話を始めるか迷っていた。
私立桜ノ森翠風学園、通称ブロッサムアカデミー。
表向きには富裕層の子供たちに政財界ネットワークの中で生きていく為の教養や基礎知識などの教育を施す機関である。
実際には財団が要求する人材の確保と異能開発を行う場だ。
悠華や真は飛び級につぐ飛び級で13歳という異例の速さで卒業した異端児である。
そのため他の生徒や教師と頻繁にもめ事を起こしていた。
その様々な不都合に頭を下げて回った上で世の中の「現実」を二人に叩き込んだのが今にこやかに微笑んでいるこの女性であった。
悠華や真はその愛の鞭というには苛烈すぎる指導の元で「現実」をねじ伏せる術を体得していったのだ。
今でも悠華は在学中のトラウマでうなされることもしばしばある為だいぶこの場に来ることをためらったが、今はそれどころでない事態でもある。
自分の出来る事や可能性を今一度洗い出さねばならない。
その為には自分に配慮や忖度がつく部下や普段の関係者に頼れない事情もある…背に腹は代えられぬ事態。しかし…
未だに踏ん切りがつかない悠華に対して真はアイコンタクトで話を始めるように改めて迫った。
”今こんなところで立ち止まっている場合ではないでしょう?”だ。
悠華は一呼吸置いてそれを受け止め、話を始めた。
「今回の話は私に現時点でどれほどの伸びしろがあるか、どれぐらい手札を持てるようになったか見てもらいたいのです。その為の相談を受けてくださいませんか?ミセス・サマーフィールド。」
その言葉がこの応接間の空気を引き締めた。
いつの間にか目の前の年配の女性から冷気じみた空気が流れ込んでくる。
その穏やかなままの瞳には慈悲なき審問官の威厳と冷徹さが宿っている。
今や審判の場と化したこの応接間は魔獣のいる檻の中の様な緊迫感が充ちていた。
常人の生命と存在を許容しないだろう殺気を浴びながら悠華と真は「はじまりの記憶」を呼び起こされた。
人々の日常を守るための自覚と意識を叩きこまれた日々とそのための誓い。
舞台の主役にふさわしいかどうか試練が二人の器のほどを今一度試すこととなった。
