涼やかな色のさざ波が白い砂浜に打ち寄せている様子が夢の中のようであった。
確かこの光景はアカデミーの修了記念で卒業旅行に行った時の記憶だ。
悠華は今目の前に広がる現実像を眺めてこの場の空気を身体全体で受け止める。
あの日誓いを共有し共に日々を過ごした仲間たち…その中にはもう二度と会えない者も少なくない。
それでも彼らの思いは悠華の胸に息づいており、様々な過酷な現実と立ち向かうための勇気と意思の源となっている。
もう戻れないかつての日々ではあるが悠華にとってその記憶は何にも代えられない日常の原風景だ。
だからこそこの景色は胸の中だけにしまっておきたかったけどな。
「おや…あまり驚かないみたいだね?色々思うことがあるかと思ったけど。」
「ミセス・サマーフィールド。恩師のあなたとはいえ気安くこの光景に踏み込んでほしくはなかったですね。」
悠華に話しかけたマリンブルーのワンピースの少女。
その姿はこの非日常の風景に溶け込んでいて、人間離れした存在感を放っていた。
「そしてあなたのその姿を見るのも久しぶりですね。今度のカリキュラムもだいぶ張り切ったモノになるのでしょう?」
悠華はあまりにも眩しい笑顔を向けてくる恩師に対して探りを入れていく。
メンタルのアドバンテージを取られたままでは話も進めにくいし、マウントをとられたままでいるのも不愉快だ。
彼女が創り出したこの異界では精神的な意思力と信念に基づく心の強さが全てを決める。
もしこの思い出の世界の揺り籠に身をゆだねてしまえば二度と現実の世界には戻れまい…それはこの夢の世界の住人として永劫を過ごすことになることだ。
そうなれば私の守るべき大切な人たちを守ることもできず仲間たちと誓った役目も果たすことが出来なくなる。
それは私を認めてくれた、そして必要としてくれている皆への裏切りとなること…それだけは許容することはできない。
挑戦的な悠華の目を興味深く見ていた少女は戦意十分なその様子を鑑みて話を進めることにする。
「時間も迫っているようだし今一度試練を受けてもらうとしようか。悠華…どうかこの試練に打ち勝っておくれよ?」
少女は虚空から一冊の本を取り出して手元に呼び寄せるとその本のページがひとりでにめくれていき、本から眩い閃光が放たれる。
それと同時に晴れ渡った青空は満点の星空へ塗り替わり月明りが空を照らした。
いつの間にか遠くに聞こえる懐かしい声…心の奥にしまい込んでいたはずの追憶が蘇る。
悠華はこれから訪れるであろう離別の再現に抗えるように戦意を改めて呼び起こし、戦闘態勢に移行する。
少女はその様子を見て、これから始まる極上の演劇を鑑賞するべく特等席に陣取った。
