夜空を照らす月明かりは雲に覆われて薄暗く、圧迫感を感じさせていた。
その宵闇の中で輝く星たちの光が懸命に不条理と戦っているように思えて宿命の存在意義を考えさせられる。
それもまた自然の営みの流れとして大事な事なのだろう。
恩師からの試練を乗り越え藤御堂本家に戻ってきた悠華は夜更けのひとときをコーヒーと共に過ごしていた。
今まで抱えてきた葛藤や乗り越えてきた宿命の数々を改めて追体験してきた事で得たものもまた少なくなかった。
自分の能力と労力だけではどうにもならない理不尽が世の中にはいくらでもあること。
一方的に与えるだけの関係やトラブルだけを取り除けばいいという考えが修復不可能な歪みやすれ違いを生むこと。
不都合要因だけを切り離して考えることの危険性を受け止めるだけの器が責任者には必要なこと…
それらを教えてくれたのはかつての仲間たちだけではない。
敵対した者、私を陥れようとした者、敵性勢力に私を売った者。
それらも私に現実の在りようや理想像だけでは解決できないことがあることを身をもって刻んでくれた。
そして弱肉強食の自然の掟では救えなかった者たちや失った命もこれからの私の進むべき道を照らしだしてくれる羅針盤となるだろう。
悠華はコーヒーを飲み終えると一息つき、また薄曇りの夜空を見上げた。
これからまた様々な理不尽や現実の非情さに対面していく日々が再開していく。
それでももう迷いや人の抱える現実に惑わされることは無い。
今まで積み上げた人との繋がりや受け継いだ意思が私の誓いを支える土台となってくれるから。
そう、”人が運命や現実に屈することなく自分の人生を生きていける日々を守る”という私の原初の誓いだ。
悠華の私室に繋がるバルコニーから涼やかな夜風が吹き抜けていく。
それは闇夜の中の戦いへ戻る感覚を研ぎ澄ませてくれる厳かな儀式となる。
悠華は満天の星へ手を伸ばしてその光を手に透かしてみた。
その健気な輝きは世界からのささやかな祝福であるように思えた。
