朝日が昇る直前が一番闇が深いとは実感していた。
しかしこれでは打つ手が間に合わないか?
彼女はまとめられた報告書を執務机の上に投げ出すと深くため息をついて天を仰ぐ。
今まで仕込んでいた計画は度重なるイレギュラーによって実用性が皆無になってしまっている。
私の使える手札やコネクションを見込んで協力してくれていた「スポンサー」の方々も最近の失態続きで機嫌が傾いている。
この状態がまだ続くとなれば容認されていた超法規措置も無くなり当然のごとく法の裁きの場へ引きずり出されることになるのは必然だ。
そこで下される決定はすでに見えているも同然…今までのグレーな付き合いのリスク要因を背負わされるのは確実。
そして私の集めてきた権限や利権案件も全てが奪われ、哀れな囚人として檻の中で現実を嘆きながら人生を終えるのみとなるだろう。
…受け入れられようもない。
ここまでどれだけの辛酸を味わい自身の尊厳を売り渡してまで築いた私の城をありふれた正しさなどの為に手放すことなどできようか。
何かこの行き詰った現状を打破する手は無いのか?
彼女は走馬灯のごとく流れるこれまでの記憶からせめてもの生存策を探し出そうとする。
日々積み重ねてきた葛藤と苦難に抗い続けてきた記憶だけが男の意思を占拠しその存在意義を主張していて、役に立ちそうなとっかかりは無いように思えた。
もはやこれまでなのか。
これから訪れるであろう現実に屈しようとした男の脳裏にひとかけらの違和感が通過する。
そうか…今からでも私の切れる手札が残っていたな。
財団の有力者が年に一度集まる懇親の場。
”人の手が届かないモノを皆で愛でよう”という名目で各人が自らの「切り札」を見せ合い、パワーバランスを確認するという意義を持つ場があった。
その名も「観月会」。
その場で私の存在意義を認めてもらえればスケープゴートとしての役目からは逃れられるチャンスがあるだろう。
そして新たな栄光への道も開けるのではないか?
彼女は思い至ったばかりの可能性に心躍らせ、早速準備に取り掛かる。
その歪んだ自我がもたらすリスクを全く考慮しないまま没頭するその姿は哀れな道化そのものだったが、その客観視の欠如が現状唯一の彼女の救いである。
その皮肉な事実があまりにも滑稽な喜劇の始まりを意味する事となった。
