私が望んでこの楽園の門を開く、と申し上げているのです。
その言葉にこの場に列席した誰もが動揺し、ざわめいた。
普段は”聖典”から得られるオーバーテクノロジーや常軌を逸する魔術的派生技術の運用を担う桜梅桃橘の四家が主催した今回の「観月会」。
各自の抱えている現実や現状のすり合わせや、それぞれが保有している「切り札」の誇示によってこのアジア圏の政治的・軍事的な不測の事態を抑止しようという場でもある。
その予定調和を互いに確認するだけのこの場にそぐわない不都合を堂々と提言するなどありえないことだった。
猜疑心は列席者の心を炙り、動揺の空気はこの場を支配しつつあった。
たまらず列席者の一人が発言者に説明を求める。
「待ってくれ桃瀬相談役…「黒曜石の瞳」を使った意識ネットワーク計画は倫理的に問題があるとの認識で凍結してあったはずだ。そのプランを軸にした”イージス・チャネル”計画も同様だと認識している。今の説明だと同計画の実務レベルの稼働実験が進んでいるという内容にしか聞こえなかったが詳しい内容をお願いできるだろうか?」
その言葉は今言ったことは嘘であったと言ってくれと懇願するように空しく響いた。
あまりにも哀れな子羊を思わせる列席者の男の様子に桃瀬と呼ばれた女は嬉しそうに説明を始める。
「ええ、その認識で間違ってはいません。グローバル・リテラシー・ネットワーク社の協力により人員と稼働環境は実務レベルで確保してあります。そして”聖典”のもたらす派生技術によってこのシナリオはこれからの現実を担うモノとなっている…このアジア圏から新たな神話が生まれ、異能者は平和の礎としてその身を捧げ貢献する。これほど美しい物語があるでしょうか?」
桃瀬は恍惚とした表情で言葉を紡ぎ終えると当然のように賛同を求める。
冷え切ったこの場に一時の静寂が訪れ、どこからともなくひとつの拍手が響く。
その音は反響して更なる拍手が重なりその数が増していく。
その一瞬後には盛大なスタンディングオベーションが巻き起こり空気は高揚して熱狂の色に場は染め上がった。
桃瀬はその光景を心地よく受け止めると、事態の承認を示す微笑みを返す。
その瞳にはこれから神に捧げられるための供物しか映っていなかった。
