ざわざわとした不穏な空気が議場に溜まり、誰もが建設的な意見を出せないまま時間だけが失われていく。
藤御堂家が統括する企業グループの役員たちが今後のヴィジョンを擦り合わせる為の場であり、戦略の方向性を決める”御前会議”。
その意思決定の場がこれほど停滞しているのは今までにない危機的状況だ。
「観月会」で確認された不自然な熱狂と不条理な採択。
桜梅桃橘の四家が日本のみならずアジア圏全域に及ぶ政財界への制圧的アプローチを仕掛けている事。
世界的な人材・資材流通を担っているグローバル・リテラシー・ネットワーク社による異能者の囲い込み。
その他様々な致命的リスク要因が動いているにも関わらず、現在藤御堂家の意思決定を承認する役目を担っている”御前様”はその水面下の動きを黙認しているかのように何の手も打っていない。
それが隠し切れぬ不満と不信感をこの場の皆に抱かせている。
まさか自分たちを売り渡す算段がもうすでに済んでいるのか?
これからの未来図に私たちの日常は組み込まれていないのでは無いか?
息子であるご当主様が不在の今、”御前様”の意思あってこそ結束の鍵だというのに何を考えておられるのか?
抑えきれぬ猜疑心は不信感となってこの場の空気を更に重くしていた。
それでも誰もそれを問おうとはしない…その悲劇的予想図を確定させたくないのだ。
何も生み出すことのない非生産的な時間がある程度流れたあと、”御前様”による当たり障りのない挨拶が終わって場が締められようとしたその時、一人発言の許可を申し出る者がいた。
「お爺様…現状に対する認識の在り方を改めて聞きたいと思います。よろしいですか?」
悠華は最悪の答えをあらかじめ想定してこの場唯一の決裁者に問いを投げかける。
それは最後の信頼が込められた言葉だ。
この言葉が振り払われたなら自分は藤御堂家そのものすら戦う相手として見なくてはならない。
孫娘の悲壮な決意を見た”御前様”はにこやかな表情で今の「現実」を通達することにする。
これからの物語の台本の内容が明らかになった日の出来事であった。
