それに孤独の色ってさ、わかる人には見えるモノよ。
彼女がその言葉で発言を打ち切ると何か気まずい空気が流れていった。
悠華はこの煌びやかな空間で重い空気が溜まっていくのを意識が炙られるような感覚で受け止めている。
グローバル・リテラシー・ネットワーク日本支社の役員用貴賓室のひとつ。
先日従属させた役員の権限でこの場所は彼女の私的オフィスとなっていた。
これからのシナリオでどれだけの譲歩と取り決めを持って帰れるかどうかで情勢も変わる。
その為に様々なプレゼンを用意してきたが反応が良くない。
何を話しても手ごたえが感じられず、思ったような承認が得られない。
焦燥感が悠華の意識を揺るがしていく…何か突破口のとっかかりは無いものか。
いつもの泰然たる余裕が失われて思考が纏まらず、箇条書きの感情は悠華の意識と思考回路を空転させていた。
その様子を見て失望の色を見せた彼女は悠華にひとつだけ言葉をかける。
「貴女の提案したプラン、様々な要因や現場への考慮も含めた素晴らしいモノだった。現状の安全保障や軍事行動リスクをも想定してあって理想論ながら実用面も問題ないように思える。」
そこで言葉を切った彼女に対して悠華は思わず理由を問おうとしたが、ここで釣られてはこの先のイニシアチブは無いのが確定してしまうだろうことを考えて無言で先を促すことにする。
その意図を察した彼女は悠華の正しい選択に対して頷くと話を続けることにした。
「そう、この理想論は”善意による運用”に頼り過ぎている。システムハックや抜け穴によるリソースの偏りや欠乏などにはどう対処するのか知りたいわね。」
根本的な構造欠陥を指摘された悠華は返答の為の言葉が見当たらず、自分の意識が困惑の中にいる事を認めざるを得なかった。
しかし欠落しているのはこちらの論理だけではない。
悠華は彼女の側のリソースとプランに対する反論を投げてみることにする。
「ミス斎木…それではこの資料の治安維持の為の人員の確保や稼働に際して明らかに不自然なリソースの割り振りが気になりますが、これはどういう意図で組まれた予算ですか?これはあなたの”サイレンス・メイデン”の異能で自我や思考形態を停止させている状況下での想定にしか見えません。人員を資材として管理するのは目に見えたリスク要因ではないのでしょうか?」
”サイレンス・メイデン”、斎木杏奈。
彼女の異能は「人間の論理的思考の土台の稼働を停止させる」という精神感応系能力だ。
その影響下では人間は埋め込まれた感情と刷り込まれた目的意識のみによって動く生体機構ユニットとなる。
沈黙という名の隷属を強いるその力は人員管理におけるイレギュラー排除の結論のひとつだろう。
しかし物言わぬ自律人形と化した彼らにも日々の日常があり、大切な者たちもいるだろう。
それを無視した現実論が行き着く先は共倒れの破滅しかあるまい。
悠華はそのリスクを背負うべきものでは無いと主張して理解を求める。
その熱の入った論説に聞き入った後、杏奈はにこやかに譲歩の提案をすることにした。
その提案内容は悠華に究極の二択を迫るものだ。
杏奈の蒼と黒のオッドアイにいかにも楽し気な光が灯り、悠華に対して最後の通告をするべく言葉が紡がれる。
明らかに呪いと束縛をもたらすその言霊はこれからの日常や現実を蝕むモノに違いなかった。
