外から差し込む光が聖堂の寂れ具合をより強調しているように思える。
悠華はそのあまりにも静かな空間に対して警戒心を抱いたが、一瞬の迷いの後に足を踏み出すことに決めた。
ここから逃げ出しても後々のリスク要因が膨れ上がるだけ…それなら今不都合要因の正体を少しでも掴むことのできる選択をするだけだ。
悠華は真に対してアイコンタクトを投げると現状の探索によるリスクを取ることを示した。
真はその意図を汲んでわずかに頷くとその後を追う。
礼拝堂らしき場所へ続いているのだろうエントランスのようなその空間には、信徒が導かれるのであろう楽園の絵画が額に収まった状態で展示されている。
その奥には薄暗い通路が見えて人影がその奥へと進んでいくのが見えた。
あまり近づき過ぎないように追跡するか…
悠華はその人影を見失わない程度に距離を取り、通路へ足を向けて違和感に気付く。
足を踏み入れてから数分、そんなに広くは無いエントランスの出口に辿り着いていない。
目の前にあるはずの通路の入口までの距離がいつまでも縮まらない。
…これは「やられた」な。
悠華は周りの状況を認識しなおすと違和感の原因を探ってみる。
エントランスの外の事が意識から不自然に消えていて、入り口や出口が見当たらなくなっていた。
おそらく現実認知を歪めるとか術者の心象世界に閉じ込めるとかな異能が今仕掛けられているのだろう。
すぐ傍にいるはずの真の気配も感じられない。
なるほどすでにここは敵の腹の中か…しかしお目当てのリスク要因がこの場所にいることもほぼ確定ということだな。
悠華は努めて冷静さを維持するとこの場の術者に語りかける。
「何処の誰かは知らないけれど、私をただ始末するよりは有用な情報を引き出してからの方があなたの飼い主の覚えも良くなるはずよ?それとも正面から私に勝負を挑むのは怖いのかしら?」
その言葉がこの場に響いてからワンテンポ遅れて空気の重さが目に見えて圧し掛かってくる。
この空間全体から悠華へのあからさまな不快感が示されたその時、一人の人影がいつの間にか現出していた。
フード付きのパーカーとジーパンという場違いにカジュアルな姿で現れた少女は明らかな苛立ちの色をその目に浮かべ、悠華にその視線を突き刺している。
その襟元に輝く妖精の姿の徽章が奇妙な存在感を放っていた。
そして少女は憂鬱そうな溜息と共に口を開く。
「まさか藤御堂のお嬢様ともあろう方がそんなに安い挑発をするとは考えもしなかったよ。上からは都合がつくまでしばらく眠らせておけぐらいの命令だったけど少しは遊んでやらないと気が済まなくなった。遊び方はこちらで決めるけどいいよね?」
当然の如く突きつけられた宣戦布告に悠華は余裕を見せて応対する。
憮然とした表情のままそれを受け取った少女は面倒そうに指を鳴らして舞台を整えていく…
新たに台本のリテイクを要求された運命の女神の機嫌の傾きもいよいよ限界を超えようとしていた。
