「言葉というものは文字として残せば神秘性が失われる」とか古代の哲学者は考えたらしい。
膨大な情報遺産が後の世に残されている恩恵で現実が回っている現代においては理解しがたい感覚に違いは無い。
しかし神代の昔に体験された神秘性を受け継いでいく者たちにとって口伝での承継は儀式であり秘儀であった。
そこに込められた意義と意味は計り知れない重さがあったのだろう。
…ああ、推論で話を進めるのを許してほしい。これらの出典は門外不出のものが多いために基礎知識の断片でさえ機密性の高い口外禁止のモノだからだ。
ここまで目を通してアリサは軽く眩暈を覚えていた。
この世界トップレベルの学府所蔵の書籍でさえこの程度の情報しか記されていない。
閲覧権を得るのに半年ほどもかかった苦労にまるで見合っていない。
これなら自分で集めてきた情報のほうが余程具体的なリソースだ。
半ば諦めて部外秘という印が貼られ、「プロジェクト・リヴァイアサン」などと大仰なタイトルを冠したそれを棚に戻しに行く…時間の浪費は重大な罪だ。
ここで得られる程度の知識ならば私自身の経験則に及びもしない。
アリサは微かな優越感とともにこの場所を後にした。
まだ自分の建ててきた因果のフラグが何を呼び起こすか自覚のないままに。
