時計塔の鐘の音がちょうど正午を知らせていた。
周りの生徒たちは各々の昼休みの構想の元に講堂から飛び出していく。
それは一斉に鳩が解き放たれるセレモニーのようで興味深いとか考える。
久々に桜ノ宮の屋敷の外へ出る気分になった沙耶はどういう風の吹き回しか学園の通常カリキュラムに出席することにしていた。
いつもは教本を開くだけでまどろみの中へダイブするのがお決まりの流れだが、何とか意識を保って授業を聞いている体裁は取っておく。
まあ基礎課程さえ履修し終えていない今の現状では面目が立たない。
…その場合苦情に晒されるのは自分の家庭教師がだが。
それを些細なことだと思うのは流石に気が引ける今日この頃だ。
それぐらいの優しさは無くさないでおきたい。
そう考えつつも沙耶の意識は宙を漂っている…眠りの神の器だとかになってどれくらい経っただろう。
別に大した変化もなかったよね。
様々に期待していたトラブルや神の器としての使命なんかには未だに遭遇していない。
まあ来るべき時に運命が変わるものなのだろう。
沙耶は適当な結論で自分を納得させるといつもの如く自分だけの世界へ飛び立つ。
神様もどうせ居るのならもうちょっと心地良い夢を見させてくれたらいいのにな…などと神学担当講師の逆鱗を刺激することばかりを考えていた沙耶の視界の端に見慣れた顔が見えた気がした。
気だるげに欠伸をしながら入ってきたひとりの男子生徒。
沙耶に対して唯一下心を見せずに接してくれた彼のことは印象深く覚えていた。
沙耶は彼に軽く挨拶をすると、にこやかに笑いかける。
すると手をひらひらと振って応じた後、彼は自分の席へと向かっていく。
あまりに素っ気ない対応をされた沙耶はいつも通りの反応にため息をつきながらも、これからの日常の中に彼がいてほしいなと感じていた。
その様子を沙耶の意識内から興味深く見ていた眠りの神はひとつのシナリオを組み上げる。
それは新たな神話の舞台が封切られることを意味していることを沙耶は知る由もなかった。
